第四十三話 脳筋そのもの

「おいフィーア、そんな踏み込みじゃホーンラビットすら仕留められねーぞ!」


「はい姐さん!」


「モリリンは無闇矢鱈に突っ込みすぎだ! 度胸だけじゃ勝てねーぞ!」


「すみませんですぅ~」


「シルシルは予備動作がデカすぎ! 手首を上手く使って最小限の動きで最大の威力を出せ!」


「ん」


「おいミーコ! そんな距離から届くわきゃねーだろ! もっと距離感を意識しろ!」


「は、はいなのです」


 今日も訓練場に、威勢のいいトゥーダの声が響き渡っている。

 その声に従っているのは、新戦力である女性冒険者四人組だ。


 さて、トゥーダが新人をしごいているのは、話し合いの結果がまとまったからに他ならない。


 先日の出来事だが――


『こまけーこたーどーでもいー。要は数年以内にまた魔王が現れるから、それをぶっ殺すって話だろ?』


 俺とツェツィで話す内容を吟味し、なるべく分かりやすく端的に伝えたのだが、それでもトゥーダには難しかったようで、彼女はしかめっ面で結論だけを求めてきた。

 一応、手も足も出なかったあの魔王と再び戦うのだと念を押したのだが、トゥーダは『万全な状態で今度こそぶっ倒す』と息巻いており、俺のバフがあれば絶対に勝てると思っているようだ。


『俺のバフで戦闘力は上がるけど、そもそもの話、全体的な戦力を増強しなきゃ無理だし、簡単な話じゃないぞ?』


『アタイ自身もそーだけどよ、アストにヴェラ、それからあの四人も強くなればいいだけの話だろ?』


『そうだけど――』


『だったらアタイがまとめて鍛えてやる! おいワルター、出し惜しみしねーで、あの四人にも地力と成長速度を上げるアクティブバフをかけろ』


 俺の言葉を遮ったトゥーダは、まだ付き合いの短い四人を正式な仲間と認めるように言ってきた。


『まだ信用できるかわからないし、もう少し――』


『信用できるかわからねーんだったら、結果で信用させればいーだけだ。チンタラしてる時間が勿体ねー、さっさとやれ』


 再びトゥーダに言葉を遮られ、しかも命令までされてイラッときたが、ヤツの言ってることは一理ある。

 それに、憤る俺をツェツィが『まあまあ』と宥め、『後でお仕置きしておきますから』と、どす黒いオーラが見えそうな素敵・・な笑みを浮かべていたので、俺の怒りはすぐに収束してしまった。


 で、とりあえず四人を呼び出し、ツェツィさんからありがたいお言葉――勇者を称えるあれこれ――が告げられる。

 それが終わると、早速彼女らを仲間として”ヌッツロース役立たず”に迎え入れた訳だが――


『これが勇者様のお力……』


『一時バフも凄いと思いましたがぁ、これはその比ではありませんねぇ~』


『ん、力、みなぎる』


『な、なんだかよくわからなですけど、と、とにかくしゅごいのです』


 そんな言葉を四人が口々に発していた。


『さて、次は穴解けっかいだな』


『いや、それはちょっと待ってくれ』


『なんだワルター、この期に及んでまだ信用がどうこう言うつもりか?』


『そ、そうじゃなくて……』


 トゥーダに穴解をするように言われたが、俺は未だにヴェラ以外の女性に穴解をしていない。


『そう言や、アタイもまだしてもらってなかったな。アストみてーに非魔術系でも効果があるなら、アタイもやってもらう意味があるよな?』


『…………意味は、ある。でも……』


『うるせー! 四の五の言わずにさっさとやりやがれ!』


 トゥーダはそう言うと、俺のベッドに寝そべった。

 こうなったら梃子てこでも動かないだろう。


 今まで散々先延ばしにして逃げてきたが、そろそろ俺も覚悟を決める時がきたのかもしれないと思い、全員にゲルから出てもらった。

 だがツェツィだけは、『破廉恥はれんちなトゥーダ様をワルター様と個室で二人きりにはできません』と言い、隣に並ぶ自分のベッドの上で正座をし、特等席での観覧準備を整えている。

 やましい事をする訳ではないのだが、なんとなく恥ずかしい。


 それでも俺は覚悟を決め、背後から見るとほぼ裸としか思えないトゥーダの背中だけに意識を集中する。

 少し開いた両腕と胴体の間に、褐色のスライム的な柔らかそうな何かが、彼女自身の重みで潰されてむにゅりとはみ出ているが、それを意識したら負けだ。


 スーハーと息を整え、俺は『穴解』と小さく口にし、トゥーダの背中だけが視界に入るよう集中した。

 彼女の肌は明るめとは言え褐色で、ビキニアーマーだけのほぼ無着衣な状態だ、淡い光が肌の色との対比でいつも以上にハッキリ見える。

 俺は集中力を維持したまま、既に慣れた手付きでツボを突く。


『はぅ、ワルター、そ、そこ……あんっ』


『ふむふむ、トゥーダ様がこのようなお声を……。興味深いです』


 まるで俺の集中を邪魔するかのような声が聞こえてくるが、俺は自分との戦いに集中するのみ。



『ワルター、こ、これは……しゅ、しゅごい、な。はぁはぁ……』


『次は私もお願いいたしますっ!』


 一通り作業が終わると、トゥーダは息も絶え絶えといった感じで、魔物との戦闘後よりも激しく肩で息をしていた。

 そして目を爛々と輝かせたツェツィが、自分のベッドから俺のベッドへ移動してきており、胸前で拳を握って懇願してくる。


『相手が赤金オリハルコンだと俺の力をかなり使うみたいで、連続でやるのはちょっと無理っぽいかな』


 それっぽい言い訳をし、俺は難から逃れた。


 だって、トゥーダはアマゾネスっぽい引き締まった体をしてるのに、触れると女性らしい柔らかさがあるんだもん。

 それに、いつも強気で威張り散らしてるくせに、『そ、そこ、らめぇ~』とか今まで一度も聞いた事のない甲高い声を出すんだよ?

 いくらトゥーダといえど、そんな声を聞かされたらさすがに俺も自分が男だと自覚しちゃう訳で……。



 そんなこんなで、後日女性冒険者四人にも穴解を施し、四人目が終わった夜、俺は無事(?)に精通した。


 ホントどーでもいー。


 それはさておき、新人たちに対する本格的な戦闘訓練が始まった。

 ツェツィにはなんだかんだ理由をつけ、まだ穴解を施していない。

 よく分からないが、俺の本能が”なんかヤバい”と告げているからだ。

 だがそれが腑に落ちないのか、彼女はトゥーダ以上に率先して新人四人に技術指導をしている。


 四人全員が魔術系なのにも拘わらず、何故か物理・・攻撃武器を持たせて。


 理由は、魔術の発動が間に合わずやられてしまうのなら、まずは殴って相手を弱らせたり動きを止めてその隙に魔術を当てればいいし、なんならそのまま倒しきってしまえばいい、という脳筋そのもの思考からくるものだった。


 られる前にれ、という考えは対魔王を想定すると如何なものかと思ったが、新人四人は何気に動きが良い。

 思わず、『ひょっとして、この方針は正しいのではないか』と思うほど、俺も毒されているのであった。

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そうせいの先導者の『そうせい』は槍聖じゃなくて創生だった ~幼馴染や国に裏切られて追放された役立たず勇者が姫巫女と開拓地で本気出す~ 雨露霜雪 @ametsuyushimoyuki

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