第四十二話 三つの案
「――――なるほど。非常に重要なお話を聞かせていただき、ありがたく存じます」
俺の話を聞き終えたツェツィは、真剣な面持ちでそう答えた。
てっきり、『何故そのような大事なお話を黙っていたのですか!?』みたいな感じで怒られると思っていたので、これは予想外の反応だ。
「ワルター様は早々に魔王が復活する事をご存知でしたのに、世間を混乱させないようその事を誰にも話さず、ずっとお独りで重荷を抱えておられたのですね。さぞお辛かったでしょう」
教えてやる義理はないと思っただけで、抱え込んでいた訳ではない。
「まだまだお慰めしたい気持ちもありますが、時間的猶予は多くありません。早急に対応策を考える必要がございます」
「うん。だから俺はツェツィに相談した訳だし」
独りで抱えるとかの問題ではなく、俺だけではどうにもならないから相談したのだ、是非とも良案を出していただきたい。
「では、最初に確認してさせてください。魔王特効装備
「聞いたとおりであればね」
実際、ゲリンが仕留めて魔王は消えたが、あの体たらくな戦闘状況から
「現状、
「嘘か真か、女神が言うには俺の身が一番大事で、俺を守る為の最終手段として用意したらしく、使えるのは一度きりって言われてたから今はもうないぞ」
「そうですね、確かにワルター様のお体が一番大事です。――それはそうと、
「言ったね」
「もしかして、再度魔王と対峙すれば、再びストレージに現れる可能性はございませんか?」
そんなの考えた事なかった。
「女神レーツェル様は、万が一でもワルター様が
あの女神がそこまで考えてるかね?
「魔王と再戦すれば、そこでまたワルター様が窮地に陥る可能性は、高確率でありますよね?」
「あるだろうね」
「でしたら、その際に再び
「それはどうだろうな?」
あの女神は抜けてるから伝え忘れてるだけで、その可能性が無いとは言えないが、予備があると信じ切るのはハッキリ言って怖い。
「仮にですよ、魔王一体につき一度だけ
「変な話、二年毎に魔王が現れてもその都度封印して、稼いだ時間で討伐する戦力を整え、二百年の眠りに就いてもらう、ってこと?」
「そうです」
再度封印しても、いつになるか不明な次回を想定して行動するのは、精神的に疲弊しそうだ。
それに、
あの女神は、期待を平気で裏切りやがるのだから。
「
「でしたら第二案です」
ツェツィは
「勇者パーティを支配下に置きましょう」
「むっ、また俺がヤツラに頭を下げるのか?」
「支配下に
調子に乗った言い方になるが、俺がゲリンたちを支配するって事のようだ。
「ワルター様のバフを打ち切られた後の戦闘を、彼らは経験しています。そして同様の経験をしたトゥーダ様がおります。そのトゥーダ様は、ワルター様のお力を認めているどころか、バフに心酔しているのが現状です」
まぁアイツは、ある意味バフ中毒だからな。
「ワルター様のバフのあるなしを経験している以上、トゥーダ様が体験談を力説されれば、如何に彼らがワルター様頼みだったか気づくはずです」
「でもゲリンは、俺以外には外面が良いのか、俺にだけ辛辣なのかわからないが、ヤツのプライドが邪魔しそうだけどな。――それとアメリアも」
あのクソ女はかなり俺を見下していたし、ゲリン以上に反発しそうな気がする。
「では第三案です」
まだあるのか。
「新たな戦力を短期間――約一年半で強化する事です」
言葉遊びのようだが、数年というのは単年である一年は含まれてないと思った。
ならば最短は二年、時は刻一刻と進んでいるので残りは約一年半となる。
ツェツィはそれを踏まえて発言していた。
「トゥーダ様は戦闘職で唯一の
「アイツは強さにしか興味ないし、魔王討伐の栄誉とかじゃ動かないと思うぞ」
「大丈夫です。ワルター様のバフを切ると脅し、『魔王を倒せずして何が最強ですか』とでも煽れば、簡単に尻尾を振ってくれます」
随分な言い草だ。
「しかし他のメンバーは、正直キツいですね」
「アストとヴェラは、俺の恩恵を最大限受けてるけど、紋章自体は最低の銅だからな。
「ですが可能性はあります」
そんなのあったか?
「現状のワルター様は、ご自身の能力を把握しておりますので、過去のようなあやふやな効果ではなく、意図して効果を発揮できております。その差を、経験者のトゥーダ様が顕著に感じられています。更に、『穴解』で底力も上がっております」
「なるほどね。――もしかすると、これが一番現実的かもな」
「それにですね、冒険者パーティの彼女たちは、低ランクの魔物が相手ならどうにかなるのです。しかし前衛が居ないので、少しランクの上がった魔物には魔術を打ち込むのが間に合わず、結果が残せていないだけで、個々はそれぞれ優秀なんですよ」
それは知らなかった。
「なので、鍛えればかなりの戦力になると思いますよ」
ここまでに提示された三つの案では、第三案が一番マシに思える。
とは言え……。
「う~ん……」
曖昧なバフしか受けてなかったとは言え、地力の高い
まぁ、魔王戦直前に俺からのバフ供給を絶ったので、あの時点で最高な状態で魔王と戦えていた訳ではない。
そして、明確なバフを受けた銀や銅の連中を一年半で鍛えて、魔王戦で俺が完璧なバフを与えたとして、勇者パーティ以上の戦力になるか甚だ不安だ。
「この件はトゥーダ様のご意見もお伺いしたいのですが、お伝えてもよろしいでしょうか?」
「言わない訳にはいかない?」
「言わなくても嬉々として戦力増強に励んでくれそうですが、やはり言うべきかと。その際、秘すべき部分は秘し、要点を絞ってお伝えすればよろしいかと」
「そだね」
トゥーダに相談する事は確定し、俺とツェツィは伝える内容を詰めるのであった。
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