第四十二話 三つの案

「――――なるほど。非常に重要なお話を聞かせていただき、ありがたく存じます」


 俺の話を聞き終えたツェツィは、真剣な面持ちでそう答えた。

 てっきり、『何故そのような大事なお話を黙っていたのですか!?』みたいな感じで怒られると思っていたので、これは予想外の反応だ。


「ワルター様は早々に魔王が復活する事をご存知でしたのに、世間を混乱させないようその事を誰にも話さず、ずっとお独りで重荷を抱えておられたのですね。さぞお辛かったでしょう」


 教えてやる義理はないと思っただけで、抱え込んでいた訳ではない。


「まだまだお慰めしたい気持ちもありますが、時間的猶予は多くありません。早急に対応策を考える必要がございます」


「うん。だから俺はツェツィに相談した訳だし」


 独りで抱えるとかの問題ではなく、俺だけではどうにもならないから相談したのだ、是非とも良案を出していただきたい。


「では、最初に確認してさせてください。魔王特効装備鏡盾アイギスについてです。その盾は、魔王を短期間だけ封印する能力があるのですね?」


「聞いたとおりであればね」


 実際、ゲリンが仕留めて魔王は消えたが、あの体たらくな戦闘状況から鏡盾アイギスを使った直後に倒した事を考えると、討伐ではなく特効効果で封印したと考えるのが妥当だろう。


「現状、鏡盾アイギスはストレージに収納されていないのですか?」


「嘘か真か、女神が言うには俺の身が一番大事で、俺を守る為の最終手段として用意したらしく、使えるのは一度きりって言われてたから今はもうないぞ」


「そうですね、確かにワルター様のお体が一番大事です。――それはそうと、鏡盾アイギスがストレージに現れたのは、魔王と対峙した以降と仰りましたよね?」


「言ったね」


「もしかして、再度魔王と対峙すれば、再びストレージに現れる可能性はございませんか?」


 そんなの考えた事なかった。


「女神レーツェル様は、万が一でもワルター様が鏡盾アイギスを使用する事態を想定していたからこそ、わざわざご用意したと思うのです。それであれば、その先も想定てしておられるはず。そうなると、十年以内に再び魔王と相まみえる事も考慮されていると思います」


 あの女神がそこまで考えてるかね?


「魔王と再戦すれば、そこでまたワルター様が窮地に陥る可能性は、高確率でありますよね?」


「あるだろうね」


「でしたら、その際に再び鏡盾アイギスがストレージに現れる可能性があるのでは?」


「それはどうだろうな?」


 あの女神は抜けてるから伝え忘れてるだけで、その可能性が無いとは言えないが、予備があると信じ切るのはハッキリ言って怖い。


「仮にですよ、魔王一体につき一度だけ鏡盾アイギスを使えるとなれば、数年から十年の間に再びワルター様が封印なされば、完全に仕留めるまで時間を作れるのではないでしょうか?」


「変な話、二年毎に魔王が現れてもその都度封印して、稼いだ時間で討伐する戦力を整え、二百年の眠りに就いてもらう、ってこと?」


「そうです」


 鏡盾アイギスが使えるなら可能かもしれないが、数年から十年というのはそこその開きがある。

 再度封印しても、いつになるか不明な次回を想定して行動するのは、精神的に疲弊しそうだ。


 それに、鏡盾アイギスが再出現するのを前提で考えるのは恐ろしすぎる。

 あの女神は、期待を平気で裏切りやがるのだから。


鏡盾アイギスについては、あったら保険として使えるくらいの認識にして、基本はないものとして考えるべきだと思う」


「でしたら第二案です」


 ツェツィは鏡盾アイギスに固執する事なく、別の案も考えていたらしい。


「勇者パーティを支配下に置きましょう」


「むっ、また俺がヤツラに頭を下げるのか?」


「支配下に置いてもらう・・・・・・のではなく、置く・・のです」


 調子に乗った言い方になるが、俺がゲリンたちを支配するって事のようだ。


「ワルター様のバフを打ち切られた後の戦闘を、彼らは経験しています。そして同様の経験をしたトゥーダ様がおります。そのトゥーダ様は、ワルター様のお力を認めているどころか、バフに心酔しているのが現状です」


 まぁアイツは、ある意味バフ中毒だからな。


「ワルター様のバフのあるなしを経験している以上、トゥーダ様が体験談を力説されれば、如何に彼らがワルター様頼みだったか気づくはずです」


「でもゲリンは、俺以外には外面が良いのか、俺にだけ辛辣なのかわからないが、ヤツのプライドが邪魔しそうだけどな。――それとアメリアも」


 あのクソ女はかなり俺を見下していたし、ゲリン以上に反発しそうな気がする。


「では第三案です」


 まだあるのか。


「新たな戦力を短期間――約一年半で強化する事です」


 言葉遊びのようだが、数年というのは単年である一年は含まれてないと思った。

 ならば最短は二年、時は刻一刻と進んでいるので残りは約一年半となる。

 ツェツィはそれを踏まえて発言していた。


「トゥーダ様は戦闘職で唯一の赤金オリハルコンなので、最大戦力として必ず参加していただきます」


「アイツは強さにしか興味ないし、魔王討伐の栄誉とかじゃ動かないと思うぞ」


「大丈夫です。ワルター様のバフを切ると脅し、『魔王を倒せずして何が最強ですか』とでも煽れば、簡単に尻尾を振ってくれます」


 随分な言い草だ。


「しかし他のメンバーは、正直キツいですね」


「アストとヴェラは、俺の恩恵を最大限受けてるけど、紋章自体は最低の銅だからな。赤金オリハルコンとは地力が違うし……」


「ですが可能性はあります」


 そんなのあったか?


「現状のワルター様は、ご自身の能力を把握しておりますので、過去のようなあやふやな効果ではなく、意図して効果を発揮できております。その差を、経験者のトゥーダ様が顕著に感じられています。更に、『穴解』で底力も上がっております」


「なるほどね。――もしかすると、これが一番現実的かもな」


「それにですね、冒険者パーティの彼女たちは、低ランクの魔物が相手ならどうにかなるのです。しかし前衛が居ないので、少しランクの上がった魔物には魔術を打ち込むのが間に合わず、結果が残せていないだけで、個々はそれぞれ優秀なんですよ」


 それは知らなかった。


「なので、鍛えればかなりの戦力になると思いますよ」


 ここまでに提示された三つの案では、第三案が一番マシに思える。

 とは言え……。


「う~ん……」


 曖昧なバフしか受けてなかったとは言え、地力の高い赤金オリハルコンという最高戦力が、それなりに鍛錬した結果があれだった。

 まぁ、魔王戦直前に俺からのバフ供給を絶ったので、あの時点で最高な状態で魔王と戦えていた訳ではない。

 そして、明確なバフを受けた銀や銅の連中を一年半で鍛えて、魔王戦で俺が完璧なバフを与えたとして、勇者パーティ以上の戦力になるか甚だ不安だ。


「この件はトゥーダ様のご意見もお伺いしたいのですが、お伝えてもよろしいでしょうか?」


「言わない訳にはいかない?」


「言わなくても嬉々として戦力増強に励んでくれそうですが、やはり言うべきかと。その際、秘すべき部分は秘し、要点を絞ってお伝えすればよろしいかと」


「そだね」


 トゥーダに相談する事は確定し、俺とツェツィは伝える内容を詰めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る