異世界転生七変化! 邪神、刷新、超斬新‼

 読者諸兄姉は『レインボー』と呼ばれるカクテルを御存じだろうか。
 比重の異なるリキュール、蒸留酒、シロップなどを使用して作るカクテルで、非常にカラフルな見た目が特徴的である。
 ただし作るのが非常に難しく、バー等で頼むと、断られるか露骨に嫌な顔をされる場合もあるので注意されたい。

 今回紹介する作品はまさに、レインボーの如き何とも形容しがたい異世界ファンタジーなのだ。

 何が形容しがたいかと云うと、テトリスである。
 概要欄にも記してあるが、主人公が転生した異世界では何故か空からテトリミノが降って来ており、主人公はその世界の住人と協力してリアルテトリスをする羽目になる。
 脅威がテトリミノだけならまだ良いが、リアルテトリスを邪魔する現地人や怪物まで居るからさあ大変。
 更にリアルテトリスは対戦形式らしく、対戦相手からのお邪魔テトリミノまで反映されてしまうのだ。
 そしてテトリミノが天に達してしまうとゲームオーバー。
 その世界は崩壊を迎え、主人公は別世界へと転生してしまう……。

 と云った具合に、描いているこっちも訳が分からなくなるが、面白さは保証出来る。
 設定もさる事ながら、文体がポップで明るいのだ。
 この作品の登場人物達は、暗い過去を背負っていたり非業の最期を迎える事が多い(リアルテトリスに負けた時点で世界は崩壊してしまうが……)。
 しかし、主人公を始めとするキャラクター達はどこか抜けており、非業の最後を迎えるにも拘らず悲壮感はない。
 その理由は作品を読んで頂くと解るはずだ。



 では、ここらでレインボーを見て行こう。

 最上層はブランデー。
 いつもの日常を表す茶色である。
 作中のプロローグである現代篇をイメージした。

 その下はシャルトリューズイエロー。
 太陽が照らし金色に色付いた草原の色は、中世篇をイメージしたものだ。

 お次はブルーキュラソー。
 青い空のイメージはもちろん天空篇。

 その下はマラスキーノ。
 無色透明クリアカラーはカモンフューチャー!
 こじつけも甚だしいが未来篇である。

 次のパルフェタムールは怪しい紫。
 邪神が跋扈する海洋篇にぴったりだ。

 転生の旅も遂に終局を迎えるここはグリーンペパーミントリキュール。
 この色は全ての謎が明かされる神代編にこそふさわしい(なんで?)。

 最下層はグレナデンシロップの赤だが……神代編で作品は完結するので余計だったか。
 と云う事で飲みに入る。
 
 実はこのレインボー、レシピにもよるのだろうが、はっきり言って美味しくない。
 先ず、グラスを傾けると色が混ざってしまい台無しになる。
 なので、飲む際はストローを使用する事になるのだが、割っていないリキュールや蒸留酒を飲む事になる為結構つらい。
 個人的に最もつらいのは、甘いシロップをストレートで飲まなければならない事だ。

 私は蒸留酒やリキュールを粗方片付け、最下層のグレナデンシロップに挑む……が、酔いの回った脳にグレナデンシロップの甘さは命取り。
 ノックアウトされた私は深い眠りへと落ちて行った……。


『……むにゃむにゃ……ん~ん、五月蠅いなあ……はっ!』

 深い眠りから醒めた私は、周囲が余りにも喧しい事に気付いた。
 私はカーテンを開け窓の外を見てみると、道路には車が満杯でクラクションもひっきりなしに鳴り、怒号や悲鳴が飛び交っている。

『一体何が起こっているんだ?』

 私は恐怖に駆られテレビを付けて見た。
 今日は日曜で時刻は午前九時を回ったばかり。
 画面の中では、女性アナウンサーが血相を変えて避難を呼び掛けている。

『何だ、ニチアサスーパーヒーロータイムか……』

 だが、ヒーローは一向に助けに来ない。
 画面の中では人々が逃げ惑うばかりである。
 私は不安になり窓の外をもう一度見てみた。
 逃げ惑う人々が空を指さしている。
 私もつられて空を見ると、確かに想定外の事態が起こっていた。

『そ、空が赤い……』

 時刻はニチアサスーパーヒーロータイム。
 なので朝焼けはとうに過ぎているし、夕焼けにも程遠い。
 それに、今の空色は朝焼けや夕焼けの色よりも遥かに赤いのである。
 私はある事を思い出した。

 ノアの大洪水以前の空と海は赤かったらしい事。
 黙示録に記されている次の滅びは、天より降り注ぐ星によってもたらされる事。

 私はある物を確認した。
 地面からせり上がる灰色の断崖を。
 グレナデンシロップ色の空から降下する、滅びをもたらすその星を。

『こ、これは地殻変動なんかじゃあない。
 空に、空にっ! テトリミノがぁっ‼』

 私は、【九頭龍坂いろは】が現れてくれる事を心から祈った――。

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