傑作

 量子の海を泳ぐ訓練を受けた主人公のナギ。彼女が本部の戦術指令システムの「件」(くだん)から受けた任務は、海軍学校時代に寮で同室だった先輩のルカにかけられた反乱の嫌疑を調査すること。支援AIのクラウスと一緒に向かった先で待ち受けていたものとは……

 全編を通して映像があざやかに浮かびます。量子コンピューターという本来ならただのデータの層に過ぎないものも、そこにダイブするナギとルカの姿をくっきりと見せてくれます。

 映像が浮かぶのは仮想世界だけにとどまりません。現実世界のナギ、ルカ、そして兵器として使用される哀しいイルカたち。それがムダのない、それでいてすべてが後のストーリーにつながる洗練された文章でつづられています。

 そこはかとない百合風味は好きな方も多いかもしれません。モチーフとなっている近未来の情報システムも、SFとして重要になる整合性をすべてクリアしています。そして何より、ストーリーに動きがあります。また、ナギがルカへの思いを抱えながらも任務を遂行するところには、昨今の小説にはあまり見られないところがあるように思います。

 この小説は既存の小説と趣きを異にしていますので、そこで意見が分かれるかもしれません。ですが、わたしはわたしの求めていた新しい小説のお手本を見せていただいたような気がします。それにストーリーが秀逸です。

 たぶん小説としてはいつも読むものと違うと敬遠される方でも、これが映像になったら好きになられる方は多いのではないでしょうか。

 わたしは傑作だと思います。