【後日談】 夢の痕跡

 白み始めた空から、霧雨が舞い降りてくる。この長い梅雨はいつ明けるのだろう。


「無二、そんなに空を眺めていたって、『お題』は降ってこないよ。ハーフ&ハーフはもう幕を引いたんだから」

 わかっている、そんなことは。

 ただ、この世界がどのような形をしているのかはわからないけれど、ETタブレットの中の『銀河』と、宇宙の中の銀河は似たようなものなんじゃないだろうか、そんな風に思えて仕方がないのだ。

 この空の彼方に、フタヒロ天使がいて、自分以外にもかの劇場に各々の脚本を寄せた書き手がいる気がして、ふとした時に眺めてしまう。


「毎終末の『恋愛』シーンには、無二も苦戦したんじゃない?」

 巫儀の奴、まだ俺が恋愛オンチだとか言いたいのだろうか。全く失礼な奴だ。

「そんなことはない。繰り返される終末ごとに、絶望的な二択のお題を配信するフタヒロ天使は少々悪趣味だが、俺は無理なく書けた。何の問題もない」

 ただしその間、読みかけの小説を放置し、有無を言わさずリヒトを黙らせていたことは、ここだけの秘密だ。まあでも、どうせ祭に参加するなら精一杯やりきりたかったから、英断だったと思う。

「だが今回の参加人数くらいなら、なんとか読んで回れたが、もっと多かったら苦しかっただろうな。隔週末くらいだと少し余裕はある。そりゃあ、毎週末の方が分かりやすいけれど……」

「ホントは月イチくらいで、ゆる〜くやってくれたらなって思ってるくせに〜」


 それはそうと、あの企画はどこかアットホームな雰囲気で参加しやすかった。まさか俺が劇団の脚本を書くことに興味を持つなんてな。

 きっかけはフタヒロ天使のお告げだが、俺も鳥を見る目がありそうだ。

 回を重ねるごとにのめり込んだし、『書く』感触を掴んだように思う。中でも一番気に入ったのは、神話風に書いた演題9の脚本『日照りの神・バツの憂鬱』。俺はこういう世界観が好きだ。本能から外れたところでごたつく人間同士の恋愛なんて厄介事の部類だし、女性は面倒な生き物だからな。


 ま、そもそも『人間』なんて、SF小説に登場する幻想種だけど。


 それにしても、この企画を通して知った作家が多かった。こと『恋愛』という主題で、その心理を読者に掻き立てさせるのに長けていたのは『嘉田まりこ』氏、「むちゃくちゃ」フレーズを読者の意識に完膚なきまでに刷り込んだ『悠木柚』氏、いつも一番乗りで投稿し、最も内容の振れ幅が大きかった『叶』氏。

 ……これ、考え出すと、キリが無いやつだ。


「それにしてもあのフタヒロ天使が書いた脚本も読んでみたかったよね。番外編ではチラッと登場したけれど、本編ではお題を出すのに徹していたし。まあ、企画・運営で忙しかっただろうけれど。あ、ねえねえ、『二択』のお題って正直なところ、どうだったの?」

「ああ……」

 実際俺は毎週末、主人公の『関川くん』が終末を迎えるという軸で書いていたから、ほぼ一択……。なんなら『二択』をあって無いものにしていた気もするが……

「なんだろうな。物語の前半部分を提示されると、意外と書きやすいってことは目からウロコだった」

「へえ、そうなんだ。読み手としても、各作家が『二択』の分岐点から先に無限の可能性を展開したのも面白かったよね」

「全くだ。それにしても最後のサプライズには驚いたな。なにせ『ゆうけん』氏が描いたのは俺たちだったんだから。『関川君』を差し置いて」

 参加者全員分のファンアート・サプライズを秘密裏に進め、ピンポイントの時空間に放ったあの手腕は、どこか俺が演題3で書いた人型ハイパーコンピュータ『ゆうけん』を彷彿とさせる。


「一段落したしさ、フタヒロ天使の新作の恋愛小説が、そろそろ始まる頃合いかな」

「ああ、そんな話もあったな。『関川君』はどこか受け身な印象のキャラクターだったが……」

 どうせなら自叙伝を書いてくれてもいい。

「まさか、なかったことになんて、しないよね」

 その『まさか』があれば、俺たちが……



To be continued......?







*本エピソードはハーフ&ハーフ終了後に二尋さんが近況ノートで問いかけたアンケートを受けて書いたものです。

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無二の朝飯前 蒼翠琥珀 @aomidori589

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