幕引き 〜カラスと朝ごはん〜

 ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございます。


 『無二の朝飯前』で引き合いに出してきた食べ物は、実は『季節』を仄めかすためのギミックのつもりでした。無二と巫儀は物凄く空腹状態で準備しているだろうと想像しながら書きましたが、決して皆様の腹の虫を襲撃する意図は無かったのです。

 にもかかわらず、色々と感応していただけたようで嬉しい限りです。


 野生動物は食べ物の獲得に貪欲で必死ですよね。

 この『必死』という言葉は非常に巧みで、『でなければ、死ぬ……』が行動の根底にある。でも、それこそ『生きる』ことかなと。


 人間社会で『食べ物』の話をすると、必ずと言っていいほど『お金』がついて回ります。所謂コストの話。本来なら自然界から発掘するはずの『食べ物』が、日本では自然界とのやり取りなしに手に入れる人が多いご時世。

 そのおかげでこうして小説を書いたりする時間を確保できたりするわけだから、決して悪いことではないのだけど……


 あまり普段意識しないことかもしれませんが、実際のところ、人生の中で『朝食』(その日のはじめの食事)をとる回数には上限があります。にもかかわらず、「時間がない」論によっておざなりに扱われることもあるでしょう。


 一日を生きるための『朝食』は、一番ゆったりと贅沢に扱いたい。とは、もちろん『素材そのものの旨味を噛み締めつつ、その食材が背負っている自然の厚みを感じる』ということ。とにかく純粋に食べること、食べるものにフォーカスしたい。

 そんな祈りめいたものが、本作に込められていたのかもしれません。




   ***


  


 さて、本作は二択を迫られるお話の続きを綴る『ハーフ&ハーフ』企画に乗っかって生まれました。

 『お題に応じて書く』こと自体、私としては初の試み。やりもせずに無理無理と避けていたわけですが、『ハーフ&ハーフ』がその壁を乗り越える良いきっかけになりました。


 また、この企画はにまつわる描写や展開の練習をしようと立ち上がったそうで、その修練のつもりで参加しました。

 ですが、動物的に感覚ベースで行動するようなところがあるからか、恋愛の駆け引きめいたものは大の苦手。つまり恋愛偏差値……低! って話なんでしょうけど、想定通り苦戦しました。

 ですが『ハーフ&ハーフ』のおかげで、『尻込みせずに、とにかく書いてリリースする』という感覚をなんとなく掴めたように思います。


 こうして自分なりに書いてみて、他の方の作品を読んでみて、そういえば私自身『恋愛小説』をあまり読んでこなかったなと、あらためて痛感しました。

 というか、そもそも小説も大して読んでいないし、もっと言えば、TV番組をはじめ、アニメーションやYoutubeにも殆ど触れておらず、映画館へたま〜〜〜〜〜に行くくらいという……

 現代において創作するには随分と不勉強です。長年の習慣……恐るべし。



 じゃあ、何見て書いてんの?

 ってそりゃあ、野山を眺めて、窓の外で囀る鳥の声を聞いて書いてますよ。



 散歩に出れば、必ずと言ってよいほどカラスを見かけます。あとちょこまか走るセキレイとか。水があるような無いような人工の川で、泳いでるのか流されてるのかよくわからないカモとか。動きが止まると、あ、お腹つっかえたんやろな、なんて考えながら。残念ながらシギは見かけないけれど、タカは近くの山に居るそうです。


 そして不思議なことに、私が遭遇するカラスは二羽で居ることが多い。


 そんな日常の風景から生まれたのが、無二と巫儀というキャラクターで、名前は北欧神話に登場する主神オーディンが連れているムニン、フギンというワタリガラスから拝借しました。それぞれという意味だそうですね。そういったニュアンスを加味しつつ、ふんわり別の意味合いも付与するイメージで独自に漢字を当てています。


 送電線はもちろん、家屋のアンテナによく留まっている姿から、人間の噂話でも集めてるんじゃないかなあ、なんて想像します。で、ムニンとフギンの事を調べてみると、情報収集のため各地を飛び回っているとか!

 自分の頭をよぎる程度のことは、たいてい既にどっかの誰かが考えています。

 そんなもんです。





 ところで、皆様カラスってどんなイメージを持っているでしょう?


 狭い視野ながら創作物を眺めてみると、カラスは怖い、荒らす、乱暴、といった悪役的な印象の方が強めかな、と。


 私はどちらかというと、カッコいいイメージを持っています。


 神話でムニン(記憶)、フギン(思考)と名付けられているあたりも、大いに頷いて賛同できる。自分で蛇口を捻って水を飲んだり、脳内設計図を元に外側は頑丈で内側はふかふかの巧妙な巣作りしたりと、賢くて本当に器用。


 それに、ジブリ映画『魔女の宅急便』に登場する、森の中で絵のモデルをしていたムナジロガラスはオシャレだな〜とか。


 私の好きな画家のゴッホも、『カラスのいる麦畑』というタイトルで、青と黄色の対比の中を黒いカラスが帰ってゆく光景を描いています。カラスが「時間帯」の象徴として描かれているようで、それはもう人の殻から解き放たれたセンチメンタル(私の個人的な解釈)。ゴッホは人を描かずして、人の心理をただそこに在るものに映し出したのかな、なんて考えてみたりします。

 

 カラスはちょっと間抜けなところもまた良いんですよ。人間でも優秀な人は頼りになるけれど、完璧じゃない方が味があってとっつきやすいですし。


 どのイメージが正解なんてことはなく、発想の転換や視野の広がりに遭遇すると楽しいし、見方を変えると、立場が変わると、ってあるあるだよね、という話です。



 アレコレと考えたり、感情の起伏があったり、仲間意識が見えたり、作業を黙々と楽しんでいたり。朝飯前の光景を通して、食べることをはじめ、生きていること自体を楽しんでいる彼らの姿を垣間見る。

 無二と巫儀のような『野生的カラスな人』を通して、これまでのに少しでも色付けできたら、もしくは少し違ったベクトルを付与できていたら本望です。


 もちろん、カラスに対して似たイメージを持っている方との出会いも期待して。


 そして『朝ごはん』をはじめ、素材を堪能しつつ食べる時間が、そしてそういった生き方を大事にする人が、少しでも増えればいいなあと願いを込めて。




   ***




 最後になりましたが、ハーフ&ハーフに参加した皆様、特にひたすらお題に応じて執筆し続けた同志の皆様、お疲れさまでした。この企画を通じて知った方も多く、沢山の刺激をいただきました。

 別に締切があるわけでもないこの企画、これから書く方も居ますよね。

 楽しみにしています。


 また、こういったを用意し、お題の準備や参加者のフォロー、交流の場としての近況ノートの開放など、様々な形で尽力下さった主催の二尋さんには頭が上がりません。



 実は私がカクヨムに登録して、というか初めて読んだWEB小説が、二尋さんの作品『ボーイズダイアリー』でした。はじめてレビューを書いた作品も同じく。

 あの頃は右も左もわからずで、まさか作者さん本人から私の近況ノートにコメントをいただけるなんて思ってもみず、緊張してしまいました。笑(今だから言う)


 ただ「カクヨムにようこそ」と言ってもらえたような気がして嬉しかったのです。以来、お世話になりっぱなしですね。そういった意味でも、この場を借りて(一応自分の場ですが)、二尋さんにあらためて御礼申し上げます。



◉ボーイズダイアリー

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882258278

「進化論と経済論と子供十字軍が織りなすSF小説」というキャッチコピーに導かれて手にとった作品。日記という構成や魅力的なキャラクターが紡ぐ静かな戦い。やさしいSFです。


 他にも沢山の素敵な作品を仕上げられていて、順に読ませていただいてますが、以下の作品にも「琥珀」というキャラクターが登場します。

(注:私が「出せ」と圧力をかけたわけではないですよ)


◉モノノ怪クリニック

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881930866

クリニックの山吹先生(物腰柔らかめで、ブラック腹ながら粋な温かさを持つ、いつも金欠な人)は私もお気に入りのキャラクターですが、どこか作者と似ているという噂も……。


◉女の直感? 北乃家崩壊の危機! 【KAC③3】

https://kakuyomu.jp/works/16816452219091108114

こちらで登場する琥珀は愛らしいキャラ。



 未踏の方は是非、触れてみて下さい。それぞれのキャラクターが生きていて、物語の中に素敵な時間が流れていますから。



 それでは。また遭う日まで。






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◉ハーフ&ハーフ参加者紹介ページ

https://kakuyomu.jp/works/16816452219618132890/episodes/16816452219618252088



【コメント欄&各自作品ページに投稿されている参加者(上記ページ紹介順)】

◉いすみ 静江さん『Iカップひなぎくの育児にぱにっと』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219720071974

◉なんようはぎぎょさん『溜め池』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934722897

◉蒼翠琥珀『無二の朝飯前』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219567055907

◉☆涼月☆さん『ハーフ&ハーフ参加作品集』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219634382982

◉悠木柚さん『ハーフ&ハーフ 二尋と涼子』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219170939051

◉黒須友香さん『お茶うけにこんなハーフ&ハーフはいかが?』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219874986703

◉満つるさん『田吾作は140字の迷作の沼にはまって溺れている』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219850544840

◉tolicoさん『関川さんと遊ぼう』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219578079140

◉愛宕平九郎さん『二択探偵フタヒロ』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219638120621

◉くまで企画さん『徒然なるままに短編を書き散らす』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219213701927

◉一帆さん『人工知能は恋をするのか』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219764931995

◉皆木亮さん『【お題企画】ハーフ&ハーフ』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219783275874

◉出っぱなしさん『関川さんと一緒』

https://kakuyomu.jp/works/16816452220144105798

◉霧野さん『ハーフ&ハーフ企画 参加作品集』

https://kakuyomu.jp/works/16816452220246177194



【コメント欄のみに投稿されている参加者】

叶良辰さん、無月弟さん、無月兄さん、なみさとひさしさん、ゆうけんさん、肥前ロンズさん、朱紀侍音さん、嘉田まりこさん


◉関川二尋さん『ハーフ&ハーフ』にて

https://kakuyomu.jp/works/16816452219618132890


(以上、2021年6月19日時点)

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