『迷探偵金田一徳の迷子録』【ミステリー?】


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「それじゃあ、なに、あなた。お父様のお誕生日を祝うために集められた私たちを襲った惨劇の犯人はこの中にいると? お父様を殺し、弟婿の昭子あきこさん、使用人の山田をも殺した凶悪犯がいると言うのね! 私たち黒丸家とお医者様、使用人、そしてたまたまやってきていたあなた方の中に!」

「はあ……これは朋子ともこ夫人。ご丁寧な状況説明をどうも……」


 豪華絢爛といえばその通り。しかし古く陰鬱とした雰囲気が拭えない屋敷に甲高い声が響いた。声の主は黒丸朋子──黒丸家長女にして当主、黒丸敏男としおの養女である。

 この場にいるのは、十三人だった。

 屋敷に勤めている執事の田中、使用人の鈴木、医師の佐藤。それから黒丸敏男の九十の誕生日を祝うべくして集められた黒丸一族。長女朋子と夫都志也としや、長男俊朗としろうと妻縫子ぬいこと娘凪子なぎこ、次男三雄みつおと息子利光としみつ、次女奈津子なつこ。そして偶々迷い込んできた胡乱な探偵の金田かねだ一徳かずのりと助手の武史たけふみ・コースキーである。


 被害者は黒丸家の前当主・黒丸敏男と、三雄の妻・昭子、そして使用人の山田洋次ようじの三名。いずれもなたか何かで顔面を叩き割られると言う惨状だった。第一発見者は佐藤哉太かなた医師と、金田、コースキーの三名。

 誰が犯人か、疑心暗鬼にもなる。

 おまけに外はひどい嵐で、麓までの道が塞がれたこの豪邸は陸の孤島と化していた。たまたま災難に巻き込まれた金田とコースキーがまず疑われた。

 朋子が甲高く二人をなじる。

「そもそも、あなた方は何故いらしたのかしら⁈ この辺りには観光名所も人里もないでしょう!」

「はあ、少しばかり特殊な事情でして……別の事件を調べる最中でした」

ざわりとさざめきが広がる。まさか、と三雄が顔を歪めた。

「事件だって? きみは刑事なのか」

「いえいえ、一般人です」

「じゃあ、なんだ」

「はあ、名乗り遅れましたが、僕はこういうものでして……」


 金田は『私立探偵 金田一徳』と書いてある名刺を渡した。これにギョッとしたのは奈津子だ。

「なんですって! 探偵の、金田一きんだいち⁈」

「金田一だって!」

「まさか、あの、有名な──」

広がる期待、しかし、打ち破ったのは金田自身だった。慣れているのだろう、顔色ひとつ変えずに遮った。

「ああ、いえ、そこで切られると、僕の名前が『徳』一文字になってしまいます。紛らわしいですが、金田です」

「いやだ、本当に紛らわしいわね!」

「はあ、すみません」

金田は申し訳ないのかそうでないのか曖昧に首だけで頭を下げるそぶりを見せた。

「僕と、助手のコースキーくんは別件の──ああ、また出遅れたと警部に怒られますね──そんな事件現場へと向かう途中に、たまたま大雨と地滑りに遭いまして。こちらで雨宿りをお願いした次第です。……そうですね、田中さん」

 金田は執事を見た。執事はゆっくりと頷いた。俊朗が慌てたように確認する。

「本当なのか、田中」

「恐れながら、事件云々はわかりかねますが、金田様とお会いしたのはこれが初めてのことでございます。麓に行く途中に立ち往生されていたことも確かなことにございます。実際、ほとんど同時にその現場に居合わせたもので……」



(ここまで)

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