『夢日記・繰り返し見る夢』 【エッセイ?】

 割と同じ夢を繰り返してみることがある。

 特に、ホラー系だ。ふとした時に、初めての町に似た景色を見つけてはテンションが上がる。まあ、夢の中の景色なんて詳細に覚えてないだろうから、なんちゃってデジャヴなのだろうが、まあよくあることなのだ。


 夢はいつも同じ場所から始まる。

 ジャカジャカと五月蝿いコインゲームの音、ギラギラと目に突き刺さるネオンライト。その中央に私は立っている。

 私はゲームセンターというものが割と好きなのだけれど、好きなのは主にUFOキャッチャーだとか、包丁で魚を捌くゲームだとかばかりで、コインゲームについては全くの素人だった。

 昔、『鷹の町』(仮称)という複合商業施設があって、何度か遊びに行っていた。そこのゲームセンターが面白いほど獲れたものだから、私はUFOキャッチャーが好きになったのだ。反して、昔から薄暗闇や大きな音に弱い性質であったので、コインゲームコーナーは苦手だった。

 私はハッとして、すぐにここから出ようとしたはずだ。コインゲームのコーナーに背を向けた。


 そこの間取りは、かつて行き慣れた『鷹の町』のそれではなく、記憶にない間取りだった。自動ドアで隔たれた店の外はさして広くはない──けれども路地というにはややさわりのあるような道路が横たわっている。道路から階段を幾らか下がったところにゲームセンターは広がっていて、一階の中央にはエスカレーターが上りと下り、ひとつずつ設置してある。階上は暗くて何のコーナーなのかはよく見えない。道路を背にして左手側はコインゲームのコーナー、右手側にUFOキャッチャーのコーナーがある。


 薄暗いコインゲームの領域を抜けた瞬間、

「こんにちは」

年若い店員に声をかけられた。

「こんにちは」

私も同じように返したと思う。


 すると、突然高めの音が鳴り響いた。すぐに私は笛の音だと理解する。私は映画『マトリックス』さながらにオーバーに仰け反った。避ける姿勢をとったすぐ後、背後から鋭利な刃物と電動ノコギリが飛んで、柱にぶつかった。投げてきた人らしき影は、コインゲームの音にも勝る舌打ちを響かせるとすぐに消えていった。


「頑張ってください」

年若い店員から笛と、銀のカトラリーセットを渡されて、私は己のやるべきことを理解した。

 ある種のデスゲームの最中にいたのだ。

 ここでは笛の音色が宣戦布告の合図だ。先に笛を吹いた方から攻撃を始める。攻撃手段は手で投擲できる範疇のものを投げることのみ。生きるか死ぬかのゲームである。

 この時、相手プレイヤーが逃走する、或いは攻撃が全て外れて相手プレイヤーの攻撃に当たると負ける。

 負けたらどうなるかは知らない。勝てば何が与えられるのかもワヤワヤしている。そんなデスゲームだ。


 私は階段を数段上がって、自動ドアから外に出た。

 外は活気のない商店街だった。シャッターが閉まっているか、或いは暗い雰囲気のあかりが溢れるか──何処へ行こうかと迷った時に吹きつく生温い風、それがぴゅろろろろと鳴く。

「敵だ!」

どれだけ狙われるのか。初心者狩りなのか。降り注ぐ刃を、たまたま近くに落ちていたシルバートレイで弾き返す。私は走る、休む、笛の音色が聞こえたら避けて逃げる、を繰り返した。

 笛はどうせ吹けないからと捨てたのか、落としたのか、その設定を忘れたのか、最初に受け取ってからは出番がない。


 とにかく、私は夢の中でずっと逃げて、追われている。

 バーのようなところでは、カウンターに隠れてやり過ごしたし、モノレールの駅ではイルミネーションに見とれたところを狙われて、やはり逃げおおせた。なんか滝のようなところでも逃げ惑っていたような気もほんのりする。


 最後は決まって笛の音色が聞こえて身構える。しかし、襲われることもなく、テーマパークの閉園アナウンスのような終了宣言が鳴り響くだけでおわる。

 そこで目が覚めるのだ。



+++



 ちなみに、現実この夢がありえないのは私が投げられたものを避けるどころか逃げることさえままならないというところにある。

 なんと私、水泳と持久走以外の運動がとにかく苦手で、クラウチングスタートで転ける、50メートルを走れば12秒(蛇のブラックマンバより遅い)、ボール投げは3メートル、Tボールで空振り三振、走り幅跳び30センチメートルといった具合なので、目覚めてすぐに夢だとわかるのがこの夢のいいところだ。

 因みに、一度だけ旅行に行ったK県にある、T通りのゲームセンターが大変イメージに近いものになっている。

 潰れてなきゃ、もう一度行きたい。


 少しだけこの夢が嫌なのは、この夢の見た日、どこかなにかで笛の音色を聞くと少しだけビックリするのだ。

 何処かの家で、リコーダーでも吹いているのかしらん、と私は視線を逸らすしかない。



【ここまで】

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