至極の音楽を聞きながら、

はじめにそこには、言葉があります。

言葉は別の言葉と重なることで、
ざらざらしたり、つるつるしたり、
あたたかかったり、つめたかったりと、
さまざまに感触が変わっていきます。

言葉と言葉の連なりがひとまとまりになると、
意味のコントラストや連動性、調和が生まれます。

一本いっぽんのそうした連なりが、
縒られ、紡がれ、編まれ、織られて、
大きな広がりを持ってようやく、
小説と呼ばれるものになります。


細かな感覚を取り逃がさず、
丁寧に言葉を選び、並べ、繋ぎ、結ぶ。
すると、不思議と音楽が聞こえてくる。
といっても、必ずしも耳から聞こえるものではなく、
記憶を介して、風景に溶けて、
風に乗って期待を誘って、
どこからか聞こえてくる。
これが音楽に関する小説だから、
というのではなく、
ただただ音楽に溢れているのです。
(音楽に関する小説ではなくても、
きっと音楽が聞こえてきます)

文章からは、言葉や音楽に対する
とても真摯な思いが伝わってきます。
そういう人にしか、書けない小説です。

私は音楽には疎いのですが、
音楽(曲)には、
小説と似たところがあるのかもしれません。

一つの音だけでは音楽にはならないのと同じように、
一つの言葉だけでは小説にはなり得ません。
言葉が文になり、文が段落になり、
段落がまとまってようやく作品となる。
そうしたフラクタル構造を、
時間を書けて、精緻に編み上げることでしか、
優れた作品とは生み出せないものなのでしょう。


是非ともこの小説を読んでいただきたく思い、
レビューを書いているのですが、
読まれなくても良いのかもしれない、
と思うくらいに良い小説です。
読まれている、評価されているとは無関係に、
良い、と断言できる小説だからです。

と、思ったけど、やっぱり読んでください!!