ねむたい子

砂田計々

ねむたい子の気持ち

 おもちゃが目の前を行ったり来たり通過するから、頑張って捕まえた。

 なんども遊んだおもちゃはもう偽物だって気づいてるけど、動いていると、どうしても体が反応する。姿勢を低く構えて、目をまん丸にしている姿は真剣そのもの。

 僕って、バカなのかもしれない。


 高いところが好き。

 ほかの者を見下ろしていると気分がいい。

 それに、高いところから無事に降りられたとき、ホッとするのも好き。

 僕が床に着地するときの足音をよく聞いてみてほしい。四本同時に着地していると思っているだろうけど、足音を聞けばバラバラに着地してるのがわかるから。


 薄っぺらい塀の上だって歩ける。

 いつも無料でサーカスを見せてあげてる。

 おおきな木にだって登れるけど、登りすぎると怖くなる。

 自分で降りられないときは、パパを呼べば助けてもらえるから大丈夫だけど。


 トイレからパパが出てくるところを待っているのは趣味。

 ドアのすぐ前だと開いたドアで顔をぶつけるから、ちょっと離れたところにいる。

 トイレから出てきたパパは僕を見つけて、何か言ってくる。

 そういうところが好き。


 鏡は苦手。

 あぶない奴が中にいる。そいつのなにが嫌かって、僕の真似をしてくるところ。

 僕に匹敵する素早いパンチも持っている。

 だから鏡の部屋にはあまり行かない。

 

「ボルカノ~」


 呼ばれると途端にしんどくなって行きたくなくなる。だからって、あまりに呼ばれないと急に甘えたくなるから、そういう僕の機微もわかってほしい。

 基本的には、僕の自由にさせてほしい。

 行きたいかどうかは常に僕も考えているから。

 今は、そう、行きたい気分。


 パパは撫でてくれるけど、ちょっと力が強い。

 足を広げて踏ん張らないとよろけてしまう。

 おしりポンポンは上手な方。

 撫でられるのも、おしりポンポンも好きだけど、もう寝たいってときにも触ってくるからついつい噛んじゃう。

 僕って、ちょっとわがままなのかもしれない。



 今日はちょっと悲しいことがあった。

 朝からパパとママが一緒に出掛けて僕を一人にした。

 どっちかは残ってくれないと僕が一人になってしまうのに。


 窓の外はくもり。

 鳥もそうそう飛んでない。

 ごはんは山盛り。

 そんなことで僕の気持ちは収まらないのに。

 すぐにお腹はいっぱいになる。

 眠たくなって不貞腐れて、クローゼットの奥で寝た。




 木がいっぱいあるところ。

 ふかふかの葉っぱは踏んでも底がないみたい。

 ここは知らないところのようだけど、まえに遊んだ庭にも似ている。

 僕はいちばん大きな木を目掛けて駆け上った。

 爪が樹皮によくかかる。

 小枝におもちゃのネズミがぶら下がっているのに気がついたけど、あれは偽物だとすぐにわかった。

 もっと上まで行けばパパとママが見えるはず。

 木は当然、空に伸び続けていた。

 登っても登っても、先端には到着しない。

 遠くでパパの声がする。

 ママの笑い声が聞こえる。



 声がして起きるとパパとママが帰ってきていた。

 僕はクローゼットを飛び出して二人の足の間を「どこに行ってた!」と言いながら八の字に抗議した。

 二人はぜんぜん反省してない感じで僕を抱きかかえる。

 僕の名前をなんども呼んで甘えてくるから、僕も少しずつ許してしまって、悲しいことはなかったことになった。

 

 二人がベッドに入るとこの家は真っ暗になる。

 暗闇の中に二人の寝顔が浮かぶのを見ていたらもうこんな時間だ。

 今夜はここで寝よう。






おやすみ

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ねむたい子 砂田計々 @sndakk

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