21代目の独り言

烏川 ハル

21代目の独り言

   

 私がこの稼業を継いでから、早いもので、もう21年目。

 お正月でもなく年の瀬でもなく、3月という中途半端な時期に気付くのが、ある意味、私らしいのかもしれない。

 3月は『年度』の終わりという見方をすれば一つの節目かもしれないが、私たちの稼業では、やはり『年度』ではなく『年』という区切り方をするものなのだ。


 21年目ということは、私がこの仕事で生み出してきた『子供たち』も21人。最初の『子供』は、今年で21歳を迎える、ということだ。

 そして、この私自身も、この稼業の21代目。なんだか、あれもこれも21回目という気がして、ただそれだけで、わけもなく面白くなってくる。


 実際にこの仕事を始めてみると、色々とあって「大変だ!」と思う時もあるが……。

 それでも、先代と比べれば、まだラクな方なのだろう。なにしろ先代の時代には、2度の世界大戦があったのだから。

 どちらの時も私はまだ生まれておらず、だから肌で実感できる話ではないのだが……。それでも、それらの大事件を経た先代は、それらが終わった後になっても、げっそり疲れたように見えていた。


 まずは、1914年。

 第一次世界大戦だ。

 名称に「第一次」とあるように、あのような規模の戦争は、私たちの稼業が始まって以来の、初の「世界大戦」だった。

 歴史書によれば、およそ50の国家が参加した戦争だったという。

 平和であれば長寿を全うできたはずの人々が、たくさん亡くなったに違いない。そんな惨状を、ただ黙って見ているしかなかった先代は、どれほど辛かったことか……。しょせん私たちの稼業では、直接介入するすべは一切なく、見守ることしか出来ないのだ。


 第一次世界大戦は1918年に終わり、1919年には講和会議も開かれたという。しかし、それで世界が平和に向かうわけではなく、次の戦争への火種を残したのだろう。

 わずか20年後の1939年、今度は第二次世界大戦が始まるのだ。


 第二次世界大戦は、第一次世界大戦よりも多くの地域が、直接の戦場になったらしい。戦火は全世界に拡大、と記されている歴史書もあるくらいだから、文字通りの「世界大戦」だったのだろう。

 史上最大のこの戦争が終結するのは、1945年。私たちの稼業で考えると、まだ先代の任期は半分も終わっていない頃だ。いきなり前半で2回も世界大戦を経験した先代は、ならば後半でも同様の大事件が勃発するのではないかと、内心ではガクガクブルブルしていたかもしれない。


 実際には、第三次世界大戦は勃発しないまま、先代は引退の時期を迎えることができた。

 だが第二次世界大戦の後は、各主要国が恐ろしい核兵器を所持する時代。国だけでなく地球そのものを滅ぼせるような兵器を、人間は開発してしまったのだ。

 今度世界大戦があれば、人類は滅ぶ。だから対立や局地戦はあっても、直接の大戦争には発展しない。そんな冷戦時代の緊張感は、それはそれで大変なものだった。

 それくらいの頃になると、もう私も生まれた後であり、物心もついていた。だから、心労の絶えない先代の様子も、直接目撃している。

 当時は「大変そうだなあ」と、半ば他人事のような目で眺めてしまった。まさか私が21代目に指名されるとは、思ってもみなかったから……。


 そんな激動の20代目と比べれば、21代目となる私は、まだまだ平和と呼べるのだろう。もちろん順風満帆とはいえないが、でも私程度で愚痴をこぼしていたら、先代には怒られてしまうに違いない。


 私がこの稼業を継いでから21年目。つまり、あと80年弱で私は引退だ。

 それまでの間に、後継者を指名しなければならない。

 今いる『子供たち』は、今年で21歳になる「2001年」も、20歳になる「2002年」も、19歳になる「2003年」も……。みんな色々と思い出深い。まだ生まれて3ヶ月の「2021年」も、可愛い『子供たち』の一人だ。

 彼らの中から私の後を継いでくれる者が現れるのか、あるいは、これから生まれる『子供たち』の一人になるのか。

 どちらにせよ、私は私の仕事を無事に全うして、平和なまま次代――つまり「22世紀」――にバトンタッチしたい、と切に願う。




(「21代目の独り言」完)

   

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21代目の独り言 烏川 ハル @haru_karasugawa

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