主人公はたくさんの裏切りにあい、憎悪を燃やす。
どうして自分ばかりがこのような酷い目に合うのかと歯噛みし続ける。
何も信じられず、相談できる相手もおらず、心のうちに抱えた黒いものは濃く大きく成長し続けた。
そんな時手に入れたタトゥーによって、物語は読者を惹きつけるように進行していく。
人は弱い生き物だ。
もしも強いと思っているのなら、それはまやかしだろう。
今ある苦もなく生きている現状が、ある日突如として間逆の状態にひっくり返ったとき。
目の前に、大きな力を突きつけ授けられたなら。
不安を拭うために、その力を利用する。
悲しいが、それが人間だ。
殺したいほどに憎む相手が目の前にいたなら、その武器がどれほど危険なものなのかと考えるより先に憎む相手に向かって武器を向けることだろう。
痛い。苦しい。つらい。
理不尽の中で、必死に手にしようともがくものは一体なんなのか。
後悔と納得。
主人公が突き進む中で手にした優しさと、苦しさを一緒に味わって欲しい。
読み始めたら、きっと止まらないはず。
是非、ご一読を。
「応えよ、タトゥー!」
印象的なセリフで発動する発火の力。
不審な男から譲り受けたタトゥーで異能を得た少年が主人公という、導入から何とも厨二心をくすぐられる物語です。
強い力を手に入れても、それを正しく使える人は多くないかもしれません。
主人公・真幌はこの力を使い、自分を陥れた友人や教師らを焼き殺してしまいます。
正直、同じ状況になったら、私も同じ過ちを犯さないとは言い切れないなと、ゾッとしました。
罪悪感と、恐怖心。
例え力の行使に代償を払うのだとしても、一度ついてしまった傷を消すことはできません。
皮膚に描き込まれた『タトゥー』が、象徴的に思えました。
物語の中で、真幌は多くのものを失います。
同時に、大事な仲間や、譲れない意志の存在に気付きます。
強いのは与えられた力であって、彼自身は決して強くない。そんな人間の葛藤と心の奥底の靭さに、胸を打たれました。
非常に考えさせられる物語でした。面白かったです!
己の望みを叶える能力を手にしたとき、人は踏みとどまることができるか――
高校三年生の真幌は、ある日謎の男から不気味なタトゥーを授けられる。念じただけで対象を跡形なく燃やしてしまう刺青だ。人間関係のいざこざから、級友と教師、スクールカウンセラーを「焼死」させることに成功した真幌は、得意の絶頂だった。証拠なく、嫌いな人間を消すことができた! 最高だ!
だがタトゥーには、それを用いることの恐ろしい代償があった。
◇
猟奇的な犯罪の報道を目にするたび、多くの人は、それを「特殊な人格の」持ち主が行ったことと考えようとします。犯人を理解しがたい存在にみなし、自分達の日常から切り離して安心したいからです。
けれども、善と悪、正義と犯罪、正気と狂気の境界は、それほど明確に分かれてはいません。ちょっとした切っ掛けがあれば、力を手にすれば、簡単に超えてしまえるのです。――そんなことを思いながら、拝読しました。
恐ろしい能力を手に入れ、その力に酔う真幌が、真実に目覚め、仲間を得て、どのように変わっていくか。どうぞ見届けて下さい。