反るぐらい真っ直ぐに書いているよ

naka-motoo

キャラ達と一緒に生きるというかわたし自身キャラのひとりだよ

 わたしはわたしの小説のキャラ達と一緒に生きている。

 こういうのを中二病って言うんだろうけど、反対に訊きたいのは中二病じゃない小説書きなんているんだろうか。


「それ、何言ってるんだ」

「すみません」

「どうするんだ」

「どうにかします」

「何でこんなことになったんだ」


 あなたがわたしたちをスルーしたから。


「大変申し訳ありませんでした。改善策は追って部署全員で洗って策定しますのでまずは問題の解決に当たらせてください」

「頭悪い」


 はい。

 わたしは頭が悪いです。


「すみませんでした・・・・私が見落としてしまったせいで」

「ううん。あなたひとりのミスじゃない。わたしのミスでもあるから」

「でも、この時はものすごく繁忙で、先輩のチェックは省略して直接部長に回す流れにしてたじゃないですか。先輩は別に・・・・」

「いいえ。わたしが普段からみんなに『この部分はミスが起きやすいから気を付けて』ってもっとしっかり注意喚起していれば防げたミスだから」

「本当にすみませんでした!」


 ああ。

 かわいそうに。泣きそうになってる。

 ちゃんと今夜、眠ってね。


「ふう」

「お疲れ様」


 あ。


 縁美えんみちゃん!


「来てくれたの!?」

「もちろん。どう?ちゃんと食べてる?寝てる?」

「眠れないのぉ」

「よしよし」


 彼女はわたしがついこの間まで小説サイトに投稿していた『反るぐらい真っ直ぐ』っていう1000文字一エピソードの長編恋愛小説のヒロイン。

 20歳のスーパーの社員さんで、年下だけど頼りになるんだぁ。


「で?問題は?」

「かなり重大なミスが起こっちゃって」

「ふうむ。あなたのミス?」

「直接は課の女の子なんだけど、でもわたしの指導不足で」

「そっか。偉かったね」

「え」

「その子のせいにしなくて」


 すん、て瞬間に目の奥から鼻孔の辺りに涙が沁みていったよ。


「うん・・・・・うん・・・・・わたし、偉かったよね?」

「偉い偉い」


 会社の本館と別館の間にある渡り廊下に置かれた横椅子に並んで座った。

 彼女はわたしの話を一方的に聴いてくれたんだ。


「でね。やっぱりわたしのせいだと思っちゃうの」

「うんうん」

「ミスが起きるじゃない?で、確かにこの件はわたしが全くノータッチで部長→役員ってパターンだったけど、それでもわたしが普段からその子にもっと厳しくしてたら良かったんじゃないかって」

「その子をほったらかしにしてたわけじゃないんでしょ?」

「うん。ミスした時すぐに『ここはこういう意味だから処理方法をこうしてくださいね』って言ってたよ。でも、もっと怖い感じで叱ればよかったのかな、って・・・・・・思っちゃうんだ」

「どっちがいいかそれは分からないけど。でも、叱ったとして、それで仕事ってできるようになるの?」

「うーん」

「もしその子が十分ミスの責任とか感じててさ。同僚とか後輩とかの眼も気にして自分を責めてたりしたらさ。あなただけはその子を最後の最後までカバーし続ける存在じゃなきゃいけなかもね」

「カバー・・・・」

「ブルース・スプリングスティーンって知ってる?」


 もちろん、知ってる。

 だって小説の中の縁美ちゃんにスプリングスティーンを教えられる人間がいるとしたらそれはわたししかいないんだから。

 でも縁美ちゃんは当然のようにこう言う。


「わたし、彼の『Cover me』っていう曲が15歳の頃からずっと好きでね」

「そうなんだ」


 ああ。でも縁美ちゃんの言うことは全部ホンキ。

 全部、ほんとうのこと。

 だって、彼女は一個の人格として生きている。

 真摯にわたしに語り掛けてくれている。


「Cover me って、守って、って意味だよね。その子に何があってもあなたはあなたの意志さえあればカバーしてあげられるんだもん。だからね」

「う、うん」

「だからそんなあなたはわたしがカバーしてあげる」


 ああ。

 嬉しいよぉ。


「あ、あれ?なんで泣くの?まだ不安?じゃ、蓮見はすみくんも呼んで来ようか?」

「ううん。いいの。蓮見くんももう大工の親方さんだから忙しいでしょ」

「じゃ、じゃあ絵プロ鵜えぷろうちゃん呼んで来ようか?」

「いいよ。絵プロ鵜ちゃんも新しい連載が始まって大変だろうから」

「じゃあ、真直まなおちゃん呼ぼっか!?」

「い、いい!いいです!真直ちゃんだけは呼ばないで!」


 ひゃひゃひゃ!って真直ちゃんの笑い声が聴こえた気がした・・・・・


 その後は縁美ちゃんとしばらくお喋りしたよ。

 蓮見くんと彼方西かなたにし駅の古本屋さんに久しぶりに行ってきたこととか、真直ちゃんにいつかお母さんって真正面から呼んでもらいたいことだとか。


 楽しい時は速やかに過ぎて。


「じゃあ行くね」

「うん。次はいつ?」

「いつでも」


 ありがとう。

 またね。


「ふう。さてと」


 わたしはスマホで小説投稿サイトを立ち上げる。

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『楽しくて愛おしい毎日をありがとうございました』


 ふふふ。


 こちらこそありがとうございました!

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