第5話 船の行き先

「まぁ、ここまでは君について、”君も知っている”事だ。ここからに私が話したい本題がある」

自然と口角が上がるのが分かった。

相手が知らない事、気づいていない事、目を逸らしている事。

それらを教えてやる時が私の人生で一番の潤いだと言っても過言では無い。

さぁ、どんな反応をするのか私に見せておくれ。

「君には魔女の素質がある」

「えっ」

彼女は酷く困惑した様な顔をした。

なるほど、妥当な反応だ。

「私の母も父も魔法使いでは・・・」

「あぁ、否定はしなくて良いよ。検査の結果は出てるし、魔法使いの素質は遺伝により発生する訳ではないからね」

実の所、私も検査の結果を見て驚いたのだ。

なんでも彼女の中には毛色の珍しい魔法が眠っているらしい。

究明の魔女なんて偏屈な奴をこの船に乗せるのは気が引けたが、こういった場面で様々な情報を手に入れられるのは助かる。

「君には魔女としての素質があると君に告げた上で聞いて欲しい事があるんだ。聞いて欲しいと言ってもこの船に乗っている限り拒否権は存在しないのだがね」

彼女が固唾を飲み込んだ。

「魔法使いは今、危機に瀕している。人間の排他性というのは恐ろしいね。反魔法的思想(アンチマジカル)の波が都市から都市へと伝染し私達魔法使いを亡き者にしようと人類の半分くらいの勢力が躍起になっているのさ。まぁ、その波が来ていなかったエチゲン市に住んでいた君が信じられないと思うのも仕方が無いがね」

表情を見るに疑念二割といった所か。

「さっきこの船は世界中を飛び回っていると言ったが私達はこの船、ニアの方舟に乗ってその土地の権力者にコンタクトを取ったり、反魔法勢力の指導者を叩いたりしている訳さ」

彼女は若干すっきりした様な顔をしているから、少しは分かって貰えたのだろう。

「そして、この船は君のような素質持ちを集めてもいるんだ。今この船は君達の素質を目覚めさせる為にエチゲン市より北方、魔法使い達の郷であるノーシィへと向かっている。当面の君の仕事はこれから案内するこの船の構造を覚えて、ノーシィに着くまで言い渡される仕事に従事する事だ。さて、この船を案内しよう。きっとこれまで魔法に触れた事のない君からすればヴンダーカンマーそのものだろうね」

そう言って私は彼女の縄を解く。

「さぁ、ついておいで」

「あの・・・」

私が扉を開けようとすると彼女は何故か私を止めた。

「・・・服をください」

「なるほど、すぐ用意するよ」

そう言えば彼女は全裸であった。

彼女ともう一人の素質持ちにはこの船での仕事を教えようと思っていたが、私は他の魔女にも言われていた通り一般的な倫理を学ぶ必要がありそうだ。


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「いやー、すまなかったね。ここは女所帯なものだから私は気にした事が無い故に失念していたよ。とりあえず私のワンピースを貸してあげよう」

私が服をくれとお願いすると啓蒙の魔女は忘れていたとでも言わんばかりに慌てて取りに行きました。

手渡された白のワンピースに身を通すと一部を除いてサイズはピッタリです。

あー(胸が)スースーする。

啓蒙の魔女も外見からすればそこまであるようには見えませんが、それでもふくよかな男性や幼児に負ける私からすれば圧倒的な差なのです。

使い込まれた衣服と言うのは持ち主の体型に合わせてクセがついてしまう物。

普段は啓蒙の魔女の胸部に押し上げられている部分が私の平原にドームを建設しました。

啓蒙の魔女もそれに気付いたのか頬を掻きます。

「・・・まぁ、ノーシィまでは距離があるし何度か補給に都市にも寄るだろうからその時まで我慢しておくれ。ここは女しかいないし気にならないとは思うけどね」

「・・・はい」

恥ずかしいとかでは無く、劣等感的な意味で気にしそうなんですが。

私が現実を見る事に恐れを抱いている間に啓蒙の魔女は扉を開け放ちさっさと出ていってしまいました。

「ヴェロニカッ!着いてこいっ!」

「は、はいっ!」

私は部屋を慌てて出ました。


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私は目の前の少女を見下ろす。

汚れた灰色の髪にくすんだ紅い瞳。

「まったく、なんで私が”目覚めかけ”の監視なんか」

相手との間に”私の発した声を聞いた”という縁が生まれた瞬間、私のすぐ隣を赤く鋭い結晶が穿った。

少女から伸びるその結晶、この場合は血晶とでも表した方が良いだろうか。

私が絶縁の魔女で、”血晶が私に刺さる”という縁を切れなければ確実に死んでいた。

他の魔法使いの魔法により強化されている壁に小さな穴を開けて尚割れる様子も砕ける様子も無いその強度を見るに鋼鉄と比べても遜色無い硬度を誇っているのが分かる。

・・・何故か啓蒙の魔女に懐いているらしいが本当になんで私が見張りになっているのか。

ただ、懐かれているという啓蒙の魔女を除いて縁という名の因果を捻じ曲げられる私が選ばれた理由も分からなくは無い。

「・・・あの子は大丈夫だろうか」

今度は血晶を出される前に”私の発した声を聞いた”という縁を切ったので攻撃は飛んで来なかった。

私に少女の監視を任せた張本人が面会をしているというが、あの良識をどこかへ忘れてきてしまった奴の事だ、非常識な事をされてあの子は困惑しているに違いない。

私は目の前の少女から注がれる”縁”を切断し、時に捻じ曲げながら未だ言葉を交わせていないあの子へ想いを馳せた。

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渇望の魔女 松房 @628537

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