素敵なファミリー・ホン
清水らくは
素敵なファミリー・ホン
「おはよう、お父さん」
ナリアが声をかけると、緑色の帽子をかぶったお父さんが手を振った。
「おはよう、お母さん」
ナリアが声をかけると、ちりちりパーマのお母さんが笑った。
ナリアは、外に出ると郵便受けから手紙を受け取った。今日は野菜がよく育つらしい。
水色の丸い皿に、猫の餌を入れる。ニャーコがニャーと鳴いて、目がきらりと光った。
「今日は、何食べようかな」
ナリアは冷蔵庫の中を見た。肉、肉、野菜、調味料。ナリアはてきぱきと、焼きそばを作った。元気が出た。
「いい天気」
窓を開けると、雲一つない快晴だった。ナリアはスキップをしながら外に出た。小鳥がピヨピヨとうたっていた。ナリアがハミングをすると、小鳥の頭にハートマークが浮かんだ。
家に帰ってくると、弟のルウトが目をこすりながら居間に来たところだった。
「リズムで遊ぼうよ」
「うん」
そう言うと二人は、音楽に合わせてテーブルや椅子をたたいた。楽しすぎて、いっぱい音符が飛び散った。
気が付くとお昼になっていた。
「ちょっと休まなきゃ」
二階に上がって、ナリヤはベッドの中に入った。
「おはよう、お父さん」
ナリアがお父さんのものだったスマートフォンに声をかけると、緑色の帽子をかぶったお父さんが画面の中で手を振った。
「おはよう、お母さん」
ナリアがお母さんのものだったスマートフォンに声をかけると、ちりちりパーマのお母さんが画面の中で笑った。
ナリアは、自分のスマートフォンのゲームを起動した。「本日のログインボーナスです」の表示の後、ゲーム内で野菜がよく育つチケットを受け取った。
ゲーム内で、水色の丸い皿に、猫の餌を入れる。ゲーム内で育てているニャーコがニャーと鳴いて、目がきらりと光った。
「今日は、何食べようかな」
ナリアはゲーム内の冷蔵庫の中を見た。肉、肉、野菜、調味料。ナリアは焼きそばのアイコンをタップする。元気ポイントが10増えた。
「いい天気」
別のゲームを起動すると、今日の設定は快晴だった。ナリアはスキップモードに設定して、ゲームの中のナリアを動かす。小鳥がピヨピヨとうたっていた。ナリアがハミングをタップすると、小鳥の頭にハートマークが浮かんだ。3ポイントゲットした。
家に帰ってくると、弟のルウトのスマートフォンを起動させた。リズムゲームを起動させ、男の子キャラのルウトと対戦する。
「リズムで遊ぼうよ」と、主役キャラのナリアが言う。
「うん」と、対戦相手のルウトが答える。
ナリアはリズムゲームで遊んだ。アイコンをたたくたびに、いっぱい音符が飛び散った。
気が付くとお昼になっていた。
「ちょっと休まなきゃ」
二階に上がって、ナリヤはベッドの中に入った。
「つまんない」
菜李亜は、スマートフォンを見ながらつぶやいた。彼女は自分で新しく作ったゲームアプリ、「素敵なファミリー・ホン」をプレイしていた。家族の残したスマートフォンを本物の家族のように思う少女が、日常を過ごすゲームだ。
二日分プレイしたものの、寂しさを感じるばかりだった。そして何より、せっかく作ったのに自分しかプレイできないのが悲しかった。
菜李亜はゲームを閉じて、「世界じゅうカメラ」を起動した。その名の通り、世界中にセットされているカメラからの光景を見ることができるアプリである。故障しているカメラも多かったが、生き残っているものもあった。東京の下町だったところ。パリの凱旋門だったところ。エジプトのスフィンクスがあったところ。どこにも人影はなかった。生物の姿すらほとんど見ることができなかった。
「つまんない」
菜李亜はスマートフォンをベッドに投げて、パソコンに向かった。一人きりのシェルター生活三年目、彼女は今日も新しいスマホアプリを開発するのだった。
素敵なファミリー・ホン 清水らくは @shimizurakuha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
日記を書いてみたい人の日記/清水らくは
★54 エッセイ・ノンフィクション 連載中 212話
将棋のゾーン(将棋エッセイ)/清水らくは
★42 エッセイ・ノンフィクション 連載中 78話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます