怪物は誰だ
鳥柄ささみ
怪物は誰だ
「何だよ、ここ……」
目を覚ますとそこはおどろおどろしい世界だった。
まるでへどろに塗れたような空間は異臭と異形で埋め尽くされ、俺はあまりの奇妙さにこれは現実なのか、と目を疑った。
(いつも通りに自宅で寝て、そして朝を迎えたはずなのに、一体何が起きているんだ?)
夢でも見ているのかと頬をつねると、痛みを実感する。
それでここは夢じゃないのかと、俺は絶望した。
「◯@$%#£*%〜!」
「ひぃ……っ!!」
異形の怪物が何かを話しながらこちらに向かってやってくる。
人間離れしたその容姿は見たこともない怪物で、人間の腕が無数に身体から生え、目はぎょろぎょろとたくさんついていて、全て血の涙を流しながらこちらを向いていた。
「うわぁああ!!」
慌ててベッドから飛び起きて立ち上がろうとするも、脚に力が入らない。
立とうとするも、自分の脚ではないみたいにふにゃり、ぐにゃりと力が抜けて膝から崩れる。
何度も何度も腕でベッドを手繰り寄せながら必死に立とうと試みるも、どうやっても立つことができなかった。
その間にも怪物がどんどんと近づいてくる。
(このままじゃ殺される! 何か武器になりそうなものを……っ)
俺は辺りを見回すと、近くにあった点滴台を引っ掴む。
そしてそれを「こっちに来るな!」と叫びながら全力で振り回した。
すると怪物はだんだんと離れていく。
俺はそれにホッとすると、再び立ち上がろうとベッドを掴み腕に力を入れるとどうにか立ち上がることができた。
まだ足の感覚が上手く掴めないが、きっと大丈夫だろうととりあえずベッドに腰掛ける。
よくよく周りを見渡せばどこかの病院だったのか、置いてあるものは見た覚えのある器具がいくつもあった。
「何だよ、ここ……」
不気味すぎて早くここから抜け出そうと、ゆっくり点滴台を支えにしながら歩き出す。
足元はぬかるんでいるのか、やけにぐちょぐちょと感じたことのない感触に嫌になるも履き物は見当たらないため、仕方なくそのまま裸足でぬかるんだ道を歩いていった。
「¥&#%=!⁈@$」
「◎@%£≒$!#*!!」
(またヤツらが来た!!)
今度は先程の人数の比じゃないくらい大勢の怪物がやってくる。
どれもこれも不気味な声で迫ってきて、俺は近寄らせないために点滴台を振り回した。
するといくつかの怪物を倒すことはできたが、その後もさらに次々と自分を囲むように怪物がやってくる。
(ヤバい。ヤらなきゃ、殺される……っ!!)
手なのか触手なのかわからないものが自分のほうへ伸びてくる。
それに思いきり噛み付くと、あとは無我夢中だった。
怪物が大人しくなるまで何度も何度も力の限り殴り、蹴り、もはや原型をとどめないほどにぐちゃぐちゃに怪物をやっつけた。
「やった、のか……?」
血なのか泥なのかはたまた肉片なのか、俺の手は様々なものに塗れていた。
辺りは静寂を取り戻し、俺は「ふぅ」と息をつくと張り詰めていた気持ちが一気に削がれ、そのままぷっつりと意識を失った。
◇
「なんだ、これ……」
次に目が覚めるとそこは地獄だった。
「母さん、父さん……兄、ちゃん……?」
俺の周りは血塗れで、見るに耐えないようなグチャグチャでぼろぼろになった死体がいくつも転がっていた。
「う、そだろ……? うぅううぇえっ、げぇ……っぶろげろぉごぼぉぉおおお」
その死体の中には見覚えのある顔もいくつかあって、俺はあまりの無惨さにその場で胃の中の物を全部吐き出す。
(誰が一体こんなことを……もしやさっきの怪物が……)
一通り吐き終えると、俺はゆっくり立ち上がる。
そして、口元を袖で拭うとゆっくり、ゆっくりと歩き出した。
「絶対に許さねぇ……っ」
怒りで頭が沸騰しそうになるのがわかる。
そして、どんどんと奥へ進むと、再び異形の怪物がこちらを囲むように進路を塞いだ。
「&#%*≒@¥!!」
「&#%*≒@¥!!」
同じことを言っているらしいことはわかったが、何を言ってるかまでは全くわからなかった。
だが、俺を殺そうとしてるのだけはわかった。
「上等だ、やってやろーじゃねーか!」
俺が拳を振り上げた瞬間、何か強い力で身体が吹っ飛ぶ。
そしてその隙にわっと怪物達にのし掛かられると、俺は身体を押さえつけられた。
暴れるもさすがの人数差でどうしようもできず抵抗する力もなくなり、だんだんと苦しさで意識が遠のいていく。
意識が切れる間際、「無差別殺人犯、確保!」という声をどこか遠くのほうから聞こえた気がした。
怪物は誰だ 鳥柄ささみ @sasami8816
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