第6話 ●驚愕 ~お前の血の色は何色だ?

二日後、ノワールは再びディオールの屋敷を訪れた。


「な、なんだこの看板は!」


そこには、『ノワール診療所分院』と書いてある看板が立てかけてあった。




「先生、いらっしゃい!」


アルジャンはいつものように明るく迎えてくれたが、


「ちょっと!この看板は何ですか!」


ノワールはすかさず抗議した。


「あれ?『本院』じゃなくて『分院』と記載したことにご立腹?」


「違う!そこじゃない!」


アルジャンは相変わらず、斜めの方向にボケてきてくれる。




「先生、いらっしゃいませ。」


ディオールが礼儀正しく、淑やかな様子で迎えてくれた。


「ちなみに、診療所にするにはどのお部屋がいいですか?お部屋はたくさんありますから」


「お前もか!」


ノワールは思わず、ディオールにもツッコミを入れてしまった。




ノワールは、今日はディオールの診察と、調合した薬を1か月分持ってきた。


「あら先生、薬は2日分でもいいですのに?もしくは1日分でもいいですわ♪」


「つまり頻繁に持って来いと。」


ノワールの指摘に、ディオールはそしらぬ顔で紅茶を口に運んでいる。




「先生、それでですね、あれから暗殺者は現れていないんですよ。」


「いや、その話はしないで。わたしにとっては『どーでもいい』ので」


アルジャンがまた暗殺者の話をしてきたので、ノワールは思わずそれを遮った。




「ひどい、先生、わたしたちのことを『どーでもいい』なんで。」


「おっしゃるとおりでございます、お嬢様。この先生の血の色はきっと黒でございましょう。」


ディオールとアルジャンはわざとらしく泣き出した。


たしかに、今のはノワールの失言だった。


「ごめんなさい、ごめんなさい、今のは失言でした!話を聞きますから!」


結局、ノワールは自らの失言がもとで、ディオールとアルジャンに2日に一回診察をする、という約束をさせられてしまった。




対して中身のない話をひとしきり聞かされた後、ノワールは屋敷を後にするため玄関でディオールとアルジャンに挨拶をした。




『シュッ!』


すると、また一昨日と同じように、アルジャンに向かってナイフが飛んできた。


『サスッ!』


まるで先日のデジャブのように、ノワールは再び反射的にカバンをだして飛んできたナイフを防いだ。


こんどはアルジャンはディオールをかばうこともせずに、ディオールと共に、


「おー」という感嘆の声と共に拍手をしていた。


「いやいや、違うんですよ、違うんですよ。」


やってしまった、という表情でノワールは懸命に否定したが、全く説得力がない。


「いやー、これでしばらく襲ってこないですね。」


「ほんと、安心して床につけますわ。」


そういって、ディオールとアルジャンは足取り軽く、屋敷の中に入っていった。




「なんで、このタイミングなんだよ…。」


ひとり取り残されたノワールはポツリとつぶやいた。


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