第8話 ●意外 ~なんちゃらかんちゃらは突然に
アルジャンにとって、それは意外だった。
まったく予測していなかったわけではないが、暗殺者が自らの姿を晒してディオールを襲ってくるとは。
「ごめんな、あんたらに恨みはないんだけど、あ、少しあるか。ここまでオレたちの仕事(暗殺)を手間取らせてくれたことは。」
そういって、暗殺者Aはナイフを片手にディオールとアルジャンに近づいてきた。
「あんたたちがさっさと殺らしてくれないから、依頼人から催促がきちゃってさ。こっちの信用問題にもかかわるから、すぐにでも決着つけさせて。」
暗殺者Bも同じくナイフを手に近づいてくる。
ディオールたちと暗殺者たちが遭遇したのは、屋敷の庭でであった。
昼間に町で二人で買い物を済ませた後、屋敷の中にはいった直後に、暗殺者たちが近づいてきたのだ。
通常暗殺者が、対象者の前に姿を現すことはない。物陰から一撃必殺で相手を襲い、すぐにその場を離脱するのが通常の手口だ。
なので、暗殺者が対象者の前に現れたのは、相当彼らが切羽詰まっている、ということでもある。
また、ディオールたちの住んでいる屋敷は町はずれにあり、人通りもほとんどない。
他人にその姿を見られることもない。
執事のアルジャンも相当の手練れである。
今まで、幾度となく暗殺者からディオールを守ってきたのだから。
だが、今回はディオールを守りながら暗殺者2名を倒さなければいけない。
これまでは、一つの行動が失敗したら、暗殺者たちは離脱していたが、今回はディオールの息の根を止めるまで、襲い掛かってくるだろう。
よって、暗殺者を追い払うのではなく、倒すことが必須となる。
しかも相手は2名。おそらく各々の能力はほぼアルジャンと同等。
かつ、ディオールを守りながら、というハンデを負っているアルジャンにとっては、完全に部が悪い。
「じゃあ、さっさと片付けますか。」
アルジャンが打開策を見つけられないまま、暗殺者Aは持っているナイフをディオールめがけて投げてきた。
ディオールにナイフが命中する瞬間にアルジャンが持っていた買い物袋でナイフを受け止めた。
すると、アルジャンの目の前に暗殺者Aが現れた。
投げたナイフをおとりにして間合いを詰めたのだ。
暗殺者Aは手にあるナイフでディオールに切りかかってきた。
アルジャンはまたもすんでのところで、それを防ぐ。
(暗殺者Bはどこだ。)
アルジャンがそう思った瞬間、
「あ」
ディオールが小さな声をあげた。
アルジャンがディオールの背中に目を移すと、ナイフが深々と刺さっており、そこを中心に血が滲みだしていた。
「最初からこうやっておけばよかったんだよ。」
その声が聞こえた方向に目を向けると、そこには暗殺者Bが立っていた。
ディオールの背中にささっているナイフは暗殺者Bが投げたものであり、アルジャンが暗殺者Aと対応している隙をついてのものだった。
「お嬢様!!!!!」
アルジャンの悲痛な叫びが屋敷の庭に響いた。
アルジャンはディオールの小さな体を抱きかかえた。
ナイフは心臓に深々と刺さっており、こうなってはもうどうすることもできない。
ディオールは、苦しそうに呼吸をしている。
そんな中、少し笑みを浮かべてアルジャンに何か伝えようとしている。
「トンッ」
そんな悲しみに暮れているアルジャンに対して、今度は暗殺者Aがアルジャンの胸にナイフを突き刺した。
アルジャンも致命傷を負い、意識を失った。
「あ、もしもし、暗殺者Bです。今、エリザベス・ディオール・サイマ、第10王女の暗殺完了しました。あ、あと一緒にいた執事もついでに。金は指定の口座に振り込んでおいてくださいね。」
暗殺者Bはターゲットの暗殺が完了したことを依頼者に携帯電話で報告している。
だが、次の瞬間、暗殺者Bが携帯をもったまま石像のように固まった。
「なんだ!」
暗殺者Bの異変に気が付き、暗殺者Aが声をあげた。
「!」
それと同時に暗殺者Aも石像のように固まった。
彼らの運動神経と五感が遮断されたのである。
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