第5話 ●回想 ~答えはまだ…
その晩、ノワールはすり鉢で後日ディオールに渡す薬を調合していた。
生まれながらにして虚弱体質であるディオールのことを、ノワールは不憫には思う。
こうした薬を飲み続けなければ、人並みの生活を送れないことはさぞかし不便であろう。
ノワールの持つ【稀能者】としての能力を使えば、ディオールの虚弱体質を治すことができる可能性は非常に高い。
【稀能者】とは、この世界に僅かに存在する特殊な能力を持っているものを指す。
その能力を持つ者たちを、だれが始めに言い出したのか不明だが、稀な能力、から、【稀能者】という造語で呼ばれている。
【稀能者】の能力は各々違っており、ノワールの能力は針を操り、人体に作用をさせる。
ノワールの能力のひとつに、ノワールだけがみることができる対象者の胸のあたりにある光体に針を刺し、その対象者自身の治癒力を極限まで高めて、病や傷を治すものがある。
なお、【稀能者】の素の身体能力は、通常の人間の数十倍である。
ちなみに、すでにお分かりのように、今日ディオールを狙った暗殺者のナイフをノワールがカバンで防いだのは、偶然ではない。
では、その能力をだれに使うか、ということだが、明確な基準は無い、というかノワールもいまだその使い方に悩んでいる。
もし、すべての人にこの能力を使えば、多くの人が病やケガから解放され、健やかに生活できるだろう。
ノワールは、基本、性格がお節介なため、可能ならばそうしたことをしたいと思っている。
だが、そうすることには大きな弊害がある。
そうした病やケガがすぐに癒されることと当たり前と考え、無謀なことを行う輩もでるだろう。
また、こうしたノワールの能力を金儲けに使うためにすり寄ってくる者もでるだろう。
そしてなにより、この能力を軍事利用しようとするものも当然出てくる。
そうしたマイナスのことを考えると、表立ってこの能力があることは公表できない。
そのため、ノワールはこの能力を使用するときには、素性を隠して行っている。
そして、彼は常にこの能力を、過去にダイナーやカーゴやフォルテに使ったように、自分に関わった人がその必要なタイミングにあった時にしか使えていない。
ノワールはそもそもお節介焼きで、可能ならば、その能力で多くの人を助けたい。
助ける際、能力を示すことになる。
能力の存在は知られたくない。
だが、可能ならば、その能力で多くの人を助けたい。
そんな自問自答をしながら、いまだに答えが見出していない状態である。
「つらいなー…。」
ノワールはそうつぶやいて、ディオールのための薬の調合を黙々とつづけた。
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