第3話 ●急襲 ~違うんだよ!違うんだよ!
ディオールとアルジャンは診察を終えたノワールを見送りに、わざわざ玄関まで出てきてくれた。
『シュッ!』
その時ディオールの顔めがけて、短刀が空気を切り裂く音と共に飛んできた。
『サスッ!』
だが、その短刀はノワールがカバンに刺さった。
ノワールが偶然を装い、短刀とディオールの顔の軌道上にカバンを差し出したのだ。
「うわ!」
ノワールは少しわざとらしく、短刀が自分のカバンに刺さったことを驚いた。
そして、ディオールとアルジャンに目を移すと、アルジャンはディオールは抱え込むようにして守っていた。
さすが執事、行動が早い。
そして、アルジャンはこうした事態に冷静に対応していた。
通常であるならば、「待て!」と言ってその短刀を投げたであろう人物を追いかけようとするが、大概その人物は短刀を投げ、相手に刺さったか否かを確認した段階で、姿を消しているので、追いかけても無駄である。
よって、このタイミングで「待て!」と言って相手を追いかけようとするのは悪手である。
むしろ、守るべき対象者ディオールの身の安全を確保するのが第一であり、アルジャンはそれを実践していた。
(この執事すごいな。)
思わずノワールは心の中で感嘆した。
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
「アルジャン、ありがとう。先生もありがとうございます。」
ディオールはアルジャンとノワールに礼を述べた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。なれたものですから。いつもはアルジャンに助けてもらっていますけど、今回は先生に助けていただきましたね。」
ものすごく大事のはずなのだが、ノワールの心配をよそに、ディオールは顔色一つ変えず笑顔で対応した。
「あ、先生、ちなみに今のは暗殺者です。お嬢様を狙った。」
「いやいや、ここは『厄介ごとに巻き込んでしまってすいません。お気になさらないでください』とごまかすケースじゃないんですか?」
さらっと事実を言ってきたアルジャンに、ノワールは思わず突っ込んでしまった。
「先生とは長い付き合いになるので、先にお話ししておいた方が良いかな、と。それにこのタイミングで襲ってきてくれるなんて、ほんとベストなタイミングでしたね。ですねお嬢様。」
「ですわね。」
「ベストかよ!」
アルジャンとディオールの言葉に、ノワールは思わず雑な返しをした。
「で、私たちはとあるところからこちらに移住してきたのですが、もれなく暗殺者もついてきました、とさ。」
「ですわね。」
「あー、もう聞きたくないです!」
ノワールは思わず、耳をふさいだ。
「先生!ここはちゃんと説明を聞くところでしょ!ねえお嬢様!」
「ほんと、先生ってば血も涙もないお方なんですね。!
「なんだこの二人、『劇団お屋敷』と命名してやろうか。」
アルジャンとディオールのわざとらしい訴えに、ノワールは冷たく言い放った。
「ま、立ち話も何なので、中でお茶でも飲みながら話しましょうよ。」
「そうしましょ♪」
「って、オイ、ちょっと帰らして、オイ!」
そういうと、アルジャンとディオールは、ノワールを強引に屋敷内に引き戻してしまった。
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