第8話 兄貴には言えないけど
兄貴と茂生君が小学校を卒業した。
四年間、俺たちは同じ学校に通っていたんだな。今さらだけど。
二人とも、近くの公立中学に通う。俺らが一緒に同じ学校に通えるのは二年後の一年間だけか……。
いや、別に寂しいとかじゃなくて。生まれて物心ついた時から、当たり前のように二セットずつで行動していたから。
もし、葵が中学受験したら、俺たちは別々の学校へ通うのかな。あいつの事だから、お受験なんかやりそうにない気がするけど。
俺も多分、中学受験はしないと思う。
それよりも、こっちの方が大問題だ。この『同じクラスの男』が好きだ、と言う事実を認めてしまった。……好きなんだ。だからどうするとか、どうすればいいとか、どうしたいとかは二の次で。
ただ、この気持ちだけは誰にも知られないようにしないと。兄貴にも。葵や茂生君、楓ちゃんにも。
両親やおじさんおばさんにも絶対に知られたくない。
この時は、まだ心の整理が出来ていなかった。
身体に異変が起き始めたのは、それから三ヶ月くらい後のことだ。
誰にも知られたくない。
誰にも相談出来ない。
兄貴にはもちろん、葵にも。
俺はだんだんと、自分の周りに他人を寄せ付けないようになっていった。
この辺りから、友達を家に呼ばない。自分も友達の家へ遊びに行かない。込み入った話をしない。他人の込み入った話を聞かない。そんな風になっていった。
いつ、どんな時にひょんな事から俺が早瀬を好きなんだとバレてしまうかわからないからだ。
葵とか茂生君や楓ちゃんとは……すぐ近くに住んでいるから、遠ざけることは無理な話だから、こちらが気をつけていれば大丈夫だと思う。
俺が一番注意を払う必要が有るのは、葵ではなくて……楓ちゃんかな。
まだ幼稚園児なんだけど。茂生君に似て、じっ、と静かにこっちを見ている。
この間なんか、兄貴と茂生君が中学の制服が出来たとかで、葵ん
『もといおにいちゃんはあ~、はじめおにいちゃんよりも~、しげおにいちゃんのほうがすき?』
……え……好き?
「……な、んで? 」
「わかんない」
「俺は楓ちゃんのほうがすきかな」
「ほんとう~? ごめんね。かえではたいちくんのほうがすきなの~」
「そ、う、なんだ。なんだあ」
誰だ、その、たいちって?
「そのつぎにおにいちゃんでぇ、そのつぎにもといおにいちゃんがすきなの~」
……お兄ちゃんとは葵のことだな。俺は三番目と言うことか。
「そうかあ……」
『かえではたいちくんと、もといおにいちゃんとはけっこんできるんだって』
「え……そうなんだ」
「うん。ようちえんでだれかがいってたの~」
誰だ幼稚園児にそんなこと教えたヤツ。
てか、元から兄貴の始は対象外か。
楓ちゃんは誰に似たんだろう。
兄貴には話せないな。
女って、この年でも油断出来ないな……と、俺は思った。
杉崎基 「俺の人生初・転換記」 永盛愛美 @manami27100594
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