第13話 ホットケーキに生クリームと苺ジャムを添えて

♢♦♢


 それから私は葉ちゃんと友彦さんと他愛もない話をして、とてもすっきりしたことを覚えている。


 翌日家に帰ると、父には怒られ、母に冷ややかな態度をとられたけれど、私は自分が頑張っていると思うことにした。


 百日を切った受験日まで頑張ろうと決めて、私は受験勉強を再開。でも、第一志望校の公立高校(といっても父と母が、私が入ることを望んでいた学校)には受からなかった。


 第一志望校は受からなかったけれど、滑り止めで受験した私立高校は受かっていた。その高校での学生生活では、今まで沢山の勉強方法で失敗してきたことを生かして、誰かに教わった学び方ではなく、自分なりの学習の仕方を試行錯誤した。


 そのお陰でようやく自分の勉強の仕方が見え、高校二年生の後半には成績が学年の上位十番以内に入りそれをキープし続けた。これは今までにないくらい良い成績だ。


 また私の成績が上がったことで、父と母が勉強に対して口出しする回数も減った。そのため、今までと違って勉強以外の話が増えたのが嬉しかった。ただ、成績が悪くたって、頑張ってることを褒めてくれたり、家族が楽しんだり、和むような会話をしてくれたら良かったのに、とは思う。


 高校では、勉強したことがちゃんと身についたお陰で、大学は第一志望校だった地元の国立大学に受かり、現在そこに通っている。


 また、今は新型コロナウイルスの影響で感染対策をしながらではあるけれど、自分の経験を生かして塾のアルバイトをしている。私と同じように苦しんでいる子たちに「君は頑張ってるよ」と励まし、彼らにあった学び方を共に模索するのだ。それは、友彦さんが教えてくれた「失敗を教える」ことに通ずるし、私だからこそ出来ることでもあると思う。


 あの時は大変だったけど、頑張って良かったなと今では思う。

 それもこれも、あの日があったからだろう。




 私にとって特別なホットケーキ。

 友彦さんが作ってくれた生クリームと苺ジャムが添えられたそれは、私にあの日のことを思い出せてくれる。


 私は、頑張った自分を褒めていいということ。

 失敗がなければ成功には辿り付けないということ。だから失敗は大切だということ。


 私たちは色々な人の、沢山の失敗を経て、今を生きている。

 大したことのない失敗。あってはいけない失敗。失敗の数も、重要度も本当に様々ある。

 しかし、今をより良く生きられるのは、その失敗があってこそなのだろう。友彦さんのホットケーキも、友彦さんのお母さんが失敗した先に見つけた成功だ。大袈裟かもしれないけれど、彼女が成功するまで諦めなかったからこそ、私はあのホットケーキを食べることができた。


 ――失敗を生かせるようになりたい。


 私はそう思う。

 私が失敗する数は、人よりも多いかもしれない。

 それでも、めげずに頑張っていこうと思う。その先にある、私の目指すべきものを叶えるために。


(完)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ホットケーキに、生クリームと苺ジャムを添えて 彩霞 @Pleiades_Yuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ