第39話 階段の下 大罪を犯す

 あれから、どれくらい時間が経過しただろうか、私は今日、高校を卒業した。あれからの日々はそれまでとは違い、少しずつだが、世界が、自分のみる景色がキラキラしていくように感じた、きっと自分の見方次第で、世の中は際限なく輝いて見える。それに気づいたのも全て彼女のおかげだ。彼女のことを忘れたことはあれから一度もない。彼女のことを忘れたことはないが、彼女とのことを振り返ることもあまりしなくなった。駅に向かってはその日あったことを思い出し、たまに彼女に報告したりして、声は聞こえなかったが、彼女が聞いてくれている、そんな気がしていた。そういえば、彼女と会った当初、遠くの街から引っ越してきただとか、バスケが得意だったとか、よくもまああんな出鱈目な話をできたものだ。あれは、彼女の理想の高校生活だったのかもしれない。でも、ここで見た彼女は少しも後悔していなかったように見えたし、それだけは間違いないと、そう思える。

 これからのことはまだわからない。そんなのは誰でもそうか、先のことがわかってしまったらつまらない。しかし、これだけは言える。私は、彼女に恥じないように真っ直ぐ、生きていく。


「ね、茜さん」


「全く、相変わらずねぇ、もっと気楽に生きたほうがいいんじゃないの?」


「え・・・?気のせいか」


 いや、これが私の生き方なんですよ、茜さん、これがあなたに対して大罪を犯し続ける私の生き方ですから。贖罪なんて、してやりませんから。


「そう、ありがとう、哲」


「また来ますね、茜さん」


 よく晴れた春の日、私は卒業証書の入った円筒を脇に挟んで、穴の開いたフェンスの前で手を合わせた。あの日から何も変わらない、優しい到着メロディが私たちを包んでいた。


 



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階段の下 大罪を犯す 言葉(ことは) @saemon243

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