第1194話「精霊の眠りとカナミの記憶」


 ジェムズマインに着いた僕はミミの気配を探し其方の方へ駆け寄る。



「そこの者止まりなさい!ここから先は巫女ミミ様のお泊まりの宿場なり!」



「僕はそのミミの師匠でヒロって言います!急いで話すことがあるんですよ!」



「またか!お前みたいな者は毎日山ほど現れる!とっとと失せろ衛兵を呼ばれたくなければな!」



 僕はその言葉に空高く水槍撃を放つ。



『気がついてくれよ!?ミミ………』そう心で叫びつつ…………



『水槍撃!!』



「どわぁ!?突然何をするか貴様…………」



 水槍撃を撃った理由は簡単で窓辺にミミとそのお付きの姿が見えたからなのである。


 彼女がぼんやり見つめる視線の先に、『僕だと言う合図』を送ればあのミミでも気付くはずなのだ。



『お師匠様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



 突然大空めがけて飛び出した巨大な水槍を見て周囲は驚き天を見上げるが、ミミは大声で叫びつつ僕の方に飛び出して来た。



「ミミ!」


「おひひょうはまぁ…………ぶえぇぇぇぇ………何処に今まで行ってたんですか!!ミミはミミは!!あ………ミミ聖女になりました!凄いでしょう?これも全部師匠と水の精霊ちゃまのお陰です!」



 百面相の様に泣いては喜ぶミミに僕は火の精霊に用事がある事を伝える。


 彼女が戯れに言った一言は彼女にとって大きな変化をもたらした。



 それが今役に立っているとは、当時の僕たちは気づく筈も無かったのだ。



「分かりました!明日からの予定を全部なしにしておきます!師匠となら、さぁ!何処へなりとも行きますよぉミミはぁ!!」



 僕はその言葉を信用して黒穴を作りカナミ達の場所までミミを誘導する準備をしておく。


「ミミこれはマモン達が使っていた黒穴だ………覚えてる?」



「はい!覚えてますよぉ〜ミミは見たものを忘れませんから!ヘカテイアちゃんも使っていたやつですよね!」



「事情は省略するけど、これを使って今からカナミちゃんの所まで飛ぶ。時間が無いから事情の説明は後だいいね!?」



 そう言うと僕はミミを連れて黒穴でカナミの元まで転移をした。




 ◆◇



「行った限り帰ってこねぇから心配したぜ!!2日も音沙汰なしって事なら先に言えよ!」



「ロズさん?街に宿をおさえに行ったはずじゃ………」



 ロズは呆れ果てながら『お前が帰ってこねぇからこうなってるんだろ?今は交代で様子見って所だぜ?』と言うが、僕自身ロズに言われるまで気が付かなかったが、気を失ってすぐ復活したわけでは無い様だったのだ。



 僕は黒穴を使い氷穴へ行った後、蘇生に2日を費やしていた………


 眠る様に微動だにしないカナミのそばに向かうと僕はミミをそばに連れて来る。



「フランメにフランム………お前達の主人はカナミだったんだろう?引き離され眠るしかない状況に追い込まれた………でももうその心配はいらない。主人が迎えに来たんだ!サラマンダーの双姫よカナミを精霊の眠りから解き放て!」



 僕はそういうと2匹のサラマンダーが現れる………



『雛美…………私達のヒナミ………ようやく約束日でこうして逢える』



『名前を変えてまで探しに来てくれた………私達の主人様』

 

 

 カナミは昔の自分を捨て僕達に付いてきてくれた………



 名前や生き様を全て捨て駆け出し冒険者から再スタートした雛美は、親から貰った名前さえ変えて僕達と行動を共にしてきた。


 ミクと知り合い、同年代の彼女達はすぐに仲良くなり昔の辛さを忘れるキッカケが出来た。



 そんなカナミに漸く精霊が戻る日が来たのだ………


 かつて愚王に利用された精霊はその都を焼き払った。



 制御できない力は時に暴力にしかなり得ない。


 持たざる者が持ってはいけない力なのだ。



『起きて!私達のご主人様今日漸くこの地に来れた………』



『雛美、これからも私たちはあなたを愛する………だから目覚めて!』



『『精霊の祝福を私たち姉妹が愛する雛美に!!今日この日に約束の地にて!!再契約をもたらさん!!』』



 カナミの髪がエクシアの様に赤々と燃える様な髪質に変わっていく。



「う…………ん…………ヒロ………ありがとう。あなたの機転のお陰で再契約ができたわ」



「カナミちゃんにミクちゃん………大丈夫?カナミちゃんはずっとここで精霊の眠りに………」



「うん………つい最近この地で精霊活動が激しくなっている事をゼフィに聞いたの。そしたらその場所は私の精霊を失った場所と一致しちゃったのよね」


 そう言ったカナミはミクに謝罪をする。



 ふらつく身体を起こしたカナミは事情を説明する。


 カナミ自体精霊核に二体のサラマンダーが収まっている事に気が付かなかった。


 サラマンダーは認識できる様に模様が違うが、フランメとフランムは双姫なので目立った変化は見られない。



 常に使役してきたサラマンダーが、まさか双子だったとは思いも寄らなかったカナミは驚きが隠せない様だ。

 

 問題は今まで一緒にいた筈のフランメにフランムが何故カナミと再契約出来なかったのかは、契約の地が大きく意味をなす様だ。



 フランムとフランメが強制譲渡された場所は、カナミにとって再契約ができる場所になった。


 しかし精霊の約束事で自分達から再契約の申し出はできない。


 一度その場を離れた彼女達はカナミの眠りに反応できなかったのだ。



 理由はミミは彼女達の代理契約者になり長い間共に居た。



 それなりの絆が出来てしまったため問題が拗れた様なのだ。



 しかしゼフィがこの地を訪れた事でそれが一気に解消された………と言うわけである。


 ゼフィランサスはこの地へ僕を探しにきた………しかし火の精霊が不規則な動きを見せているのでカナミ達を呼んだのだった。



「何はともあれ問題は解決したな?それで記憶はどうなんだ?ヒロ………」



 その言葉にカナミとミクは『記憶は?って何の事なの?』と逆に質問を返す。


 僕はしっかり取り戻した彼女達の記憶と共に試練の結果を告げる。



「記憶は取り戻しました……確かにこの場所が試練の関係箇所だった様です。過去に栄えた都の跡地………エルフ魔法陣がかつてあった様ですね。嘗ては異世界からの協力者を得る為の祭壇だったようです」



 僕はそう言って崩れて壊れた足元のエルフ文字を指し示す。


 そこにはかつて僕が試練に使った様な扉の跡地があり既に風化していた。


 精霊の多くはその跡地に反応を示して集まっては消えていたのだった。



「ミクちゃん……ゼフィランサスは何処へ飛び去ったのかわかる?」



「北の方角に飛んでいったから霊峰じゃ無いかしら…………ジャイアントが住む土地よ!」



 ミクの言葉に僕は目的地と被る奇跡を感じる。



「ならばこのまま向かえばいずれゼフィと対話になるな………もう悪魔種とは言わせない元の身体を戻したからには!」


 そう言って僕は北の方角を見上げた。

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手違いで異世界に強制召喚されました! ZOMBIE DEATH @zombiedeath

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