第1193話「龍の血」
「ならば私に先に話してよ!何故相談も無くこんな場所に………下手すれば皆殺しだったのよ?」
「ごめん龍っ子。もしかしたら会話くらいは成立すると思って………たかを括っていたんだ…………」
思ったことを伝えるも、龍っ子は若干お怒りモードのまま傷付いた首筋を僕へ差し向ける。
「必要なのは血でしょう?私でも問題はないはずよ。これでも龍の端くれなんだから!」
僕はカサンドラから受け取った耐熱性のポーション瓶を傷口に添わせる。
「ありがとう龍っ子。これで元の身体には戻れる可能性ができた」
僕はそう言って赤く煌めくポーション瓶を見せる。
火龍の血は一件するとただの血だが、触れるものを焼き払う性質があるらしい。
地面こそ焼はしないが血の滴が垂れるたびに『ジュー』と音がする。
その様子からして、素手で触れてはならない事は一目瞭然であった。
「それはそうと…………今までここで何を?」
「カナミが…………サラマンダーとの契約で眠りについたそうなの。だからミクがずっと寄り添っているらしいんだけど………ってそうかパパは異世界人の記憶を忘れちゃったのよね!?」
「彼女達がその異世界人なんだね………多分何かきっかけがあってから思い出すと思うんだけど今は…………」
「そのキッカケってさ、もしかしたらその手に持つ瓶がキッカケじゃ無いのかい?」
エクシアの一言で僕はハッとする。
精霊核を戻せればフェニックスキングの素核を使いパワーを増した状態であれば、カナミに働きかけられるのではないかと…………
もしそれが上手くいけば運が良ければ、彼女達に関する記憶が戻る可能性もあるのだ。
「やってみる価値はありますね!ちょっと氷穴のカサンドラに話をしてきます」
僕はそう言って黒穴を使い氷穴への道を作った。
◆◇
「フローゲル師匠!精霊術についての相談を!」
僕はそう師匠のフローゲルに声をかける。
カナミに起きた事を説明できるのは、おそらくこの人物以外を置いて他に存在しないと踏んだからだ。
「なんじゃ?随分早く帰ってきたもんじゃな……まさか首尾良く龍の血を手に入れて帰ってきたのか?」
「それもあるんですが………問題は別でして……」
そう言って僕はカナミに起きている異常を説明する。
「それは精霊の眠りじゃな」
「精霊の眠り?」
フローゲル曰く精霊の眠りとは、契約状態にある精霊がなんらかの理由で引き離されたときに起こる事象のことだと言う。
その精霊を見つけた時に同じ状況に術者が陥る事から、精霊の眠りと名をとったらしいのだ。
だとすればあの地に眠るサラマンダーは眠りについていて、その契約者がカナミと言う事になる。
「あれ?何故ここに二人が?」
そう言った僕の目線の先には、目を赤くして泣き喜ぶサイキとシリカがいた。
「実はの……錬金術師としての授業をカサンドラに頼まれての。その助手として娘達が必要じゃったって言うわけでな!」
僕の話が脱線しては居るが、シリカとサイキは大喜びでフローゲルに接している。
ひとまず僕は状況を整理する為に事細かく説明をする。
「成程ねぇ………駄目で元々まぁやる価値はあるでしょう」
「どういう状況で眠りについたとか何か情報は他にないの?」
サイキとシリカが交互に質問を交わす中、カサンドラは小瓶を見つめてウットリしている。
「漸くこれで息子を手に入れられるわ!これでボイド様のDNAと私の………うふふふふふ」
随分と世界がトリップしている様だが、僕の生き返りに関してはカサンドラにも特がある様だ。
「その問題は後回しよ!シリカとサイキは今から蘇生術をするから手伝いなさい!フローゲル準備を!」
「仕方ないの……まさかこんな形で魔王と手を結ぶ日が来るとはな………とほほ………」
そう言ったフローゲルは術式を展開すると、僕の意識は唐突にホムンクスルから切り離された………
◆◇
『成功よ!これでボイド様の息子と私の子が誕生するわ!』
飛び跳ね喜ぶカサンドラは僕をみると『これか貴方のお兄ちゃんよぉ』と言いつつ小さい子供が入った培養器を僕に見せる。
「子供!?カサンドラ母さんこれは?」
「え?息子に決まってるじゃない貴方の中のボイド様のDNAと私のDNAを掛け合わせて貴方を基に作った正真正銘私の子供よぉ〜!」
僕は元の身体に戻ったが、前に使っていたホムンクスルはカサンドラが作ったラボに格納されている。
そこからは何やら管が伸びており、倍容器へと繋がれているのだ。
どうやら僕は元の身体に戻るきっかけを得るついでに余計な計画に付き合わされた様だ。
「それで………フローゲル師匠………僕は元に戻ったのかな?」
「戻る事は戻ったがちと様子がな………人間では無く魔王として覚醒してしもうた様でそればかりはどうにもならんかったわい」
そう……以前にも僕のステータスには人族のステータス項目が抜け落ちていた。
なので復活した今回は魔王からスタートした様なのだ。
「それで………支障が無い訳………無いですよね?」
カサンドラは子供が入った容器を置くと僕の方に向かってきて………『今まで通りとはいかないわよ!だって虚無化した貴方が全て丸々元通りなんて事あるはず無いじゃない!』と言う。
そう言われれば説得力がありすぎて僕は何も言えなくなってしまう。
「それで?記憶は?」
「………思い出せない………でも確実に意識にある事はわかる。呼び戻すにはあの大暴走娘のミミが必要だ!」
「「ミミ!?」」
「ミミって………ファイアフォックスの聖女ミミ様?」
シリカがそういうとサイキも不思議そうに僕をみる。
「うん………おそらくカナミを起こすのに必要ななの焔の姉妹の力だ………」
僕はそう言うと『フランムとフランメ』の事を考える。
意識を失い、起きる直前見た映像………予知夢に近いその映像はあの姉妹が目醒めるきっかけをカナミが有している情報だったのだ。
「なら急いだ方が良いかもしれないわ。今彼女は冒険者としてではなく巫女ミミとしての活動が多いから今ならまだジェムズマインの街に居るはずだから!」
そう言われた僕は黒穴を作りジェムズマインまでの道のりを作る。
「相変わらず人間離れしてるわねぇ………魔王として覚醒だなんて」
そうサイキが言う事を聞きつつ僕はジェムズマインへ向かった。
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