第四話

 それから三年、雄大は死ぬ気で働いた。すべてはザ・ノベリストの特別応援サービスを利用するためだ。


 客先に突撃し、自社製品のプレゼンを情熱をもって行った。なかなか会ってもらえない社長には丁寧に自筆の手紙をしたためた。顧客の欲しいものを予測し、適切な時期に訪問した。

 課長の暴言にも負けるもんか、と見返すほどに売上げを伸ばした。

 

 すべてはザ・ノベリストのランキングのため。


 気が付けば、社内で営業成績はNo,1、グループ企業でもトップ営業マンとして表彰されるようになった。ボーナスは倍近くに跳ね上がり、特別報奨金も得た。


「お前にここまで根性があるとは思わなかったよ」

 昭和レトロの生ハゲ課長や同僚の見る目が変わった。

 それまで成績が悪く、やる気のなかった雄大を避けていた若い営業アシスタント女性が雄大の資料作成を優先して手伝ってくれるようになった。


 そして、雄大はある出版社からオファーをもらった。できる若手営業マンの営業手法について、ビジネス書を書いて欲しいというものだ。雄大は仕事の合間に原稿を書いた。


「追放された三流営業マンが異世界で猛烈リベンジ、地味スキルで売上120%を達成した方法」


 本書は全国の書店に平積みされ、わかりやすい例えのユニークなビジネス書としてテレビやネットで話題となり、ビジネス書売上げランキング1位を獲得した。

 本に感銘を受けて、ノウハウを仕事に生かせた、営業成績が伸びたと喜びの声が続々届いた。


 夢だった大型書店でのサイン会も実現した。ラジオ番組に出演依頼があり、若葉いろはと対談もできた。


 今もザ・ノベリストでは好きなファンタジー小説を書き続けているが、相変わらずランキングは圏外だ。それでも、300話を越えたあたりで月に一度は感想をもらえるようになった。

 感想のレベルはせいぜい特別応援サービスの梅クラスだ。それでも嬉しい。


「文章が下手クソ、中学生の作文」

「ヒロインが調子に乗っている」

「書籍化なんて無理」


 そんな感想も気に病まなくなった。なぜなら雄大はビジネス書に新風を巻き起こしたベストセラー作家なのだ。

 ネット小説の世界で雄大の正体は知られていない。


 金銭には余裕ができた。しかし、特別応援サービスを使うことはもう無いだろう。今は穏やかな心で好きな小説をのびのびと書いている。

 雄大は爽やかな表情で運営からのメールを削除した。

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万年ランク外のワナビは書籍化の夢を見るか 神崎あきら @akatuki_kz

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