第三話
昼休み、喫茶店で豚の生姜焼き定食を食べながら、申し込みフォームを開いた。いいね×100,お気に入り×20、感想サービス 梅×1を申し込んだ。
ザ・ノベリストで三度だけ、感想をもらったことがある。
「この話は山田きらりの”勇者がスライムと意気投合して世界征服”のパクリですね」
「ヒロインが死ぬほどむかつきます」
「十八行目と五十二行目に誤字がありました」
感想マークがついたときに狂喜乱舞し、ページを開くとこれだ。雄大の絶望は計り知れない。お金を払う感想なら、きっと前向きなことが書いてあるだろう。金で感想を買うことにプライドをかなぐり捨てていることは置いといて、雄大はわくわくしながら営業車のエンジンをかける。
サービスは夕方には提供されており、ランキングは98位に浮上した。これで人生で初めて100位に入れた。雄大は拳を固めてガッツポーズをする。申し込みをした数量以外にいいねが2加算されていた。やはり、目立てばその分ブーストがかかる。
「そうだ、感想サービスはどうだ」
感想欄には“面白いです。勇者が格好いい!続きを楽しみにしています。”と書き込みがあった。なるほど、これが”梅”か。
肯定的な感想を初めてもらったことで、脳内にアドレナリンが噴出するのを感じた。
「なかなかいいじゃないか」
雄大は再び特別応援サービス申し込みフォームを開いた。
***
1ヶ月が過ぎ、雄大の小説はランキング8位にまで上昇した。サービス以外にもごく稀に本物のいいねや感想をもらえるようになった。
しかし、どうしても8位以上の壁は厚い。上位層はファンの数が安定しており、マメに定期更新をしている。それで確実に順位を上げてくる。
雄大は前月のクレジット明細を見て、背筋が凍った。ザ・ノベリスト運営に12万8450円を支払っていた。
それなのに、徐々にランキングの上昇が鈍化し、ときには盛大に落ちることもある。それを食い止めるために、際限なくサービスに金をつぎ込んだのだ。
営業といえども、見なし残業20時間程度しかもらえない給料ではこの金額は高すぎた。しかし、サービスの利用を止めれば一気にランキングは下がってしまうだろう。一度上位に食い込んだ雄大にはそれが耐えられなかった。
おそらく、あと3人ほど10位以内に金の力を持つものがいる。正直奴らの小説は明らかにおもしろくない、それなのにランキング上位なのはおかしい。
奴らと戦うためには金だ、金が必要だ。どんな手を使ってもいい、金を手に入れて特別応援サービスにぶっ込んでやる。
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