第二話

 そんなある日、ザ・ノベリスト運営からメールが届いていた。雄大は書籍化の誘いか、と胸を躍らせながらメールを開く。そこにはこのような案内があった。


―親愛なる作家の皆さんへ

いつもザ・ノベリストをご利用いただき、ありがとうございます。本メールは特別に選ばれた方にのみお送りしています。


 そんなこと書いて、全員に送っているんだろう。もったいぶって始まる案内を読み飛ばしていく。雄大のスクロールの手が止まった。


●特別応援サービス

1いいね 10円

1お気に入り 100円

感想サービス 松 2000円 竹 1000円 梅 500円


 雄大はその金額表にかじりついた。サイトでのいいねやお気に入りの件数を操作できるというのか。興奮しながら、先を読み進める。


―本サービスのご利用履歴は保護され、公開されることはありません。


 つまり、金の力でいいねやお気に入りを増やせるのだ。しかも、金の力を使ったことはバレないようにしてくれるという。いいねやお気に入りが増えれば、おのずと目につき、ランキングが上がっていく。


 小説サイトでは作家友達の数も重要で、お互いの作品を読んでいいねやお気に入りをつけ合うことで順位が上がる。

 雄大はいろんな小説を読みあさり、いいねやお気に入りを入れて丁寧な感想を書いていった。

 しかし、相手はお礼コメントを返してくれるものの、雄大の小説を読みくるものはほとんどいない。


 この特別応援サービスなら、不確かなお返しに頼ることなく確実に評価を上げることができる。雄大はゴクリと生唾を呑込んだ。


 メールの最後にはご丁寧に申し込みフォームへのリンクがあった。10円や100円なら試してみてもいいか、雄大は自信作の作品IDといいね×10、お気に入り×10を申し込んでみた。


***


 翌日、サイトを確認すると申し込み通り、いいねとお気に入り数がアップしていた。つまり、誰も読んでいないという証明になってしまったが、まあいい。

 ランキングは176位、一気に浮上だ。雄大は明るい気分でぼろアパートを出た。


「お前は仕事をナメてんのか」

 雄大は朝礼後に呼び出され、生ハゲの課長に怒鳴られた。

「なんだこの成績は、公園で昼寝でもしてるんじゃないのか。俺たちはサラリーマンじゃない、セールスマンだ。わかってんのか江口」

 昭和バブルのやればやるだけ売れた華々しい時代の自慢話が始まった。同じ部署の同僚がクスクスと笑いを堪えている。


 雄大は課長の話を右から左へ聞き流す。このハゲ、調子に乗りやがって。

 唾を飛ばしながら熱弁を振るう課長を見ていると、自作の「陰気で目立たないキャラの俺がファンタジー世界で最強ハーレム、イケメン魔王は泣いても絶対に許してやらない」に登場させるモンスターのモデルにしてやろうと思いついた。


 そうだ、醜いゴブリンがいい。こいつをどうやって倒してやろうか、雄大はそれを考えながら真剣な表情を浮かべる。

「おう、反省したようだな江口。しっかりやってこいよ」 

 課長は雄大が説教を真摯に受け止めたと勘違いして満足そうに頷き、部長にごまをすりに行った。

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