第6話:復讐準備

「ユルシュル嬢、ここを自分の屋敷だと思って寛いでください」


 ホワイトリー伯爵シルヴァン殿が本気で言ってくれます。

 ホワイトリー伯爵だけでなく夫人も二人のご子息も本気で労わってくれます。

 これには少々拍子抜けしてしまいました。

 最悪私を暗殺するために影響下にある貴族家に送ると思っていましたから。

 完全に警戒を緩めるわけにはいきませんが、ならば甘えさせていただきましょう。


「ありがとうございます、ホワイトリー伯爵シルヴァン様。

 ではお言葉に甘えさせていただきます。

 本当はとても不安で恐ろしかったのです。

 また暴漢を装った貴族の手先に襲われるのではないかとビクビクしていたのです。

 ホワイトリー伯爵様の真心のこもったお言葉を聞けて、やっと安心できました」


 全てが嘘ではありませんが、道中それほど不安があったわけではありません。

 公爵邸を出てからずっと前世の知識を使って自分の力を確認してきました。

 何も分からない状態でも、想いだけでア・バオ・ア・クゥーのケガを完治させることができたのですから、桁外れの才能があるのは分かっていました。

 それに、毒から完治したロドリグ、サロモン、ヴィオレットの三人が完璧な状態で護衛してくれているのなら、敵が千人いても返り討ちにしてくれます。


「今回は大変な思いをされましたな、ユルシュル嬢。

 貴族の中には、権力や金の為ならどれほどの悪辣非道な手段も平気な者がいます。

 ですがこの城に来られたからにはもう大丈夫でございますぞ。

 我が家中には他の貴族に惑わされるモノは一人もおりません。

 とまでは言えませんが、本館の客間を世話する家臣なら金や権力に魂を売るような者はおりませんから、安心されてください」


「ありがとうございます、ホワイトリー伯爵様」


「いえ、いえ、お気にされる事はありませんよユルシュル嬢。

 貴族として当然の事をしているだけです。

 それと、様付けは止めてくださいますか、ユルシュル嬢。

 公爵令嬢に様付けされては驕り高ぶっていると非難されてしまいます。

 普通に伯爵と呼んでください、お願いします」


「ありがとうございます、ホワイトリー伯爵」


 どうやら本当に安心な家を手に入れられたようですね。

 王家やプランケット公爵家が本気でホワイトリー伯爵家を潰しにかかったら、家臣領民のために私を殺そうとするかもしれませんが、それは仕方のない事です。

 いえ、むしろ領主の鑑といえるでしょう。

 まあ、私が火傷跡を完治させない限り、私をずっと苦しめたいと思っているイヴォンヌ達が私を殺す事はないでしょう。

 その間に情報を集め力をつけ復讐の準備を整えるのです。

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