第3話:目覚めと記憶

「姫様、姫様、姫様、私が不甲斐ないばかりに」


 痛い、顔がズキズキと痛みます。

 頭が、頭が割れるように痛いです。

 いえ、割れるなんて表現は生易し過ぎます。

 脳が膨れ上がって爆発してしまいそうな痛みが続きます。

 胸も、胸も張り裂けそうなくらい激烈に痛みます。

 ヴィオレット、助けてヴィオレット。


「泣くなヴィオレット、泣くより前にする事があるだろう」


 あまりの痛みでもうろうとするなかで、わずかに言葉が聞こえます。

 ヴィオレットが側にいてくれる。

 そう思うだけで少し痛みが軽くなります。


「そうでした、その通りでした。

 姫様にこのような事をしでかした連中を皆殺しにしなければ」


 私をこのような状態に?

 一体何を言っているのヴィオレット。

 痛い、痛い、痛い、痛い。

 思い出そうとすると脳が爆発しそうなほど痛みます。

 思い出そうとすると胸が張り裂けそうな痛みがさらに強くなります。


「その前にこの屋敷の中にいる敵の内通者を特定するのだ。

 どう考えても我々三人が同時に病に倒れるのはおかし過ぎる。

 誰かが我々に毒を飲ませたのだ」


 毒、毒ですって。

 三人は流行り病で倒れたのではなかったの。

 痛い、痛い、何か思い出すたびに痛みが酷くなってしまいます。

 ヴィオレットの顔を見て安心したいのに、何も見えない。

 ヴィオレットに話しかけたいのに、口を動かす事もできないです。


「誰かですって、誰かだなんて調べなくても分かり切っているじゃないですか。

 イヴォンヌの尻軽王妹と色事師のゴーエル男爵。

 それにプランケット公爵家を後継者を狙うレイモン、シュゼット、セヴランの山狗三匹以外の誰がいるというのですか。

 もうこうなったら戦争です、五人ともこの手で八つ裂きにしてやります」


 イヴォンヌ、母上の事ですか。

 母上が私に何かしたとうのですか。

 痛い、痛い、何か思い出すたびに痛みが酷くなってしまいます。

 でも、痛みのお陰かようやく思い出せました。

 私は襲われたのですね。

 最後の最後に、初級の火魔術で顔を、顔を焼かれてしまったのですね!


「お前ら何をしている。

 重症の姫様を前に騒ぐなど非常識過ぎるぞ。

 今は復讐よりも先に姫様をお助けする事だ。

 まずは確実に命をお助けして、顔を元通りに完治させる事こそ家臣の役目だ。

 姫様を護り切れなかった我らがまず最初になすべき事はそれだ」


 ロドリグですか、今話しているのロドリグですね。

 これでヴィオレット、サロモン、ロドリグの無事が確認できました。


「「申し訳ありません」」


 ヴィオレットとサロモンがロドリグに謝っています。

 私の顔の火傷はよほど重症のようですね。

 襲撃者達は最後に何度も初級の火魔術使っていましたね。

 痛い、痛い、何か思い出すたびに痛みが酷くなってしまいます。

 あ、ア・バオ・ア・クゥー。


 私を助けようとしてくれたア・バオ・ア・クゥー。

 脚が千切れかかっていたア・バオ・ア・クゥーは無事なのでしょうか。

 まさか、まさかもう安楽死させてしまったのでしょうか。

 私よりも先にア・バオ・ア・クゥーを助けなければ。

 神様、天におられる神々よ、私の命を捧げます。

 どうか、どうか、どうかア・バオ・ア・クゥーをお助け下さい。

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