第4話:屈辱

「ユルシュル、私達に顔を見せなさい」


「イヴォンヌ様、それはいくらなんでも……」


「お黙り、家臣の分際で口を挟まない」


 私を護ろうとヴィオレットが母をさえぎろうとしてくれましたが、私を貶めたい一心の母はヴィオレットを一喝して黙らせてしまいました。

 いえ、私がヴィオレット達に何があっても黙って従えと命じていたのです。

 私が厳しく止めていなければ、ヴィオレット達は母を殺していました。

 この場ではなく、もっと早くに母達を惨殺してくれていた事でしょう。

 自分達の命を捨ててでも、必ず殺してくれていたと思います。


「ありがとうヴィオレット、私を心配してくれたのね。

 でも大丈夫よ、私は本当に大丈夫。

 ヴィルジール王太子殿下に今の私をしっかりと見ていただかなければね。

 何といっても殿下は私の婚約者なのですもの。

 どのような傷跡が残っているのか、確かめていただかなければいけません」


「ユルシュルお嬢様……」


 顔中に包帯を覆っているので私には何も見えませんが、分かります。

 それまでも緊張に満ちていた部屋の雰囲気が、更に引き締まりました。

 私の顔の状態次第で殿下のプロポーズがなかった事にされます。

 あれだけの王侯貴族の前で行われたプロポーズをなかった事にするのです。

 よほどの状態でなければ許されない事です。


「ユルシュルお嬢様、失礼いたします」


 ヴィオレットが私の後ろに回って包帯をほどこうとしています。

 いつも騒がしい母までが何も口出しせずに黙っています。

 ヴィルジール王太子殿下は、最初に私に見舞いの言葉を話してから何も話さず、側近達にいたって部屋に入る時の挨拶以外一言も話していません。

 張り詰めた空気というのはこのような状態を言うのでしょうね。


「「「「「ひぃいいいいいい」」」」」

「「「「「うっくっ」」」」」


 最初は見世物を見るつもりだったのでしょうね。

 顔にケガをした私を蔑むような気配を持っていた母と侍女達が、あまりに惨たらしい火傷の痕跡に恐怖を感じたようですね。

 自分がやらせたこの顔を思い出して、一生悪夢にうなされるがいい、イヴォンヌ。


 王太子は想像以上に醜い火傷跡に恐怖よりも吐き気を催したようですね。

 王太子は何とか吐くのを我慢できたようですが、側近の中には我慢できずに吐いてしまった小心者もいるようで、嫌な嘔吐臭が部屋に満ちてしまいました。

 どこからともなく便臭も漂ってきました。

 どうやら失禁脱糞したモノもいるようですね。


「目まで潰された私には分かりませんが、これが今の私でございます。

 せっかくお見舞いに来てくださった殿下には申し訳ないのですが、まだまだ傷跡の痛みが激しいので、できれば今日はこれでお帰り願えませんでしょうか」


 気を使って解散できるようにしてあげたのです。

 これ以上私を見世物にするのは止めていただきましょうか。

 そして、私の処遇とこのような事をしでかした者達にどのような処遇を与えるのか、じっくりと見させていただきますよ、殿下。

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