お薬屋さんの裏側が分かるお仕事モノ

ドラッグストア、薬剤師という舞台や題材で、作者さんの経験や知識に裏打ちされたのであろう情報を読み取ることができる作品でした。勉強になります。

ですが、あらすじにあるようなSF要素が全く活かされていないのが残念でした。
近未来の驚くような技術や、現代人にはない発想の薬剤が出てくるわけでもなく、食料や燃焼が不足した終末世界で、病気に苦しむ人々を薬剤師としてのプライドに懸けて救ったり奮闘するお話でもありません。
SF的な作品にするのか、あるいは現代を舞台にし、実際の法律や知識に基づいて描写するのか。どちらかにした方が良かったかなと感じました。読者のほとんどは薬学に関する知識がないため、どこまでが現実の知識で、どこまでが架空の設定なのか判断できません。そのため「薬剤師ってそういうものなんだ」と、そのまま受け入れることができませんでした。

それに主人公の慧子も、優秀な人間ではあると思うのですが、知識や経験に基づいて淡々と業務や問題に対処し自己完結するため、感情移入が難しかったです。他人の仕事や日常風景を、ただ見せられている印象を受けてしまいました。
もし私に知識があって、この作品を書くとするなら、たとえばドラッグストアや薬剤師の知識が全くない・あるいは最低限はあるけど実際の職場を知らない新人などをキャラとして起用します。
そして慧子とのダブル主人公にして、慧子からの指導を受けつつ、読者と一緒に「ドラッグストアってこんな職場なんだ、薬剤師ってこういう仕事で、こんな苦労もあるんだ」と、驚きや仕事の醍醐味を共感させる方向で展開させたと思います。

指摘が多くなってしまいましたが、作者さんの知識や経験は本物で、他人には描けない強力な武器だと思います。ですのでそれをもう少し上手く活かして欲しい、惜しいと感じてしまったからかもしれません。

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