0感少女

佐倉島こみかん

0感少女Aちゃん

 これは、私が中学校の修学旅行で体験した話です。


 私の中学校の修学旅行は、北九州をめぐる二泊三日の旅でした。

 初日の行程が終わって山の上にある宿泊先に着くと、そこは町が一望できるそれはそれは眺めの良い旅館でした。

 女子の部屋は最上階の6階だったので、旅館の立地もあり、遠くまでよく見渡せたのです。


 ただし、私達6人の班に割り当てられた部屋の窓の真下を見ると、そこには墓地がありました。

 林が墓地の手前にあって若干見えにくくはありましたが、山の斜面に段々に並んだ灰色の石碑の群れは、紛うことなく墓石です。

 オーシャンビューならぬ墓地ビューだと気づき、部屋の皆でキャーキャー騒ぎました。

 しかし、その時はまだ日の暮れきっていない夕方だったため、さほど怯えるでもなく、怖いねえ、今夜出たらどうする? と冗談のように言い合いながら各自荷物の整理などしに解散しました。

 私は他の子より一足早く片づけを終え、またなんとなく窓の下を眺めていました。

 すると、墓地の横の階段を上ってくる人がいることに気付いたのです。

 6~7人の大人が1列になって歩いているのが、木々の隙間から見えました。

「あ、お墓参りかな」

 気づいた私が言うと、周りのみんなも好奇心からまた窓に集まってきました。

「あ、ホントだ。結構人数いるね」

「坂道で大変そう」

 口々に言いながら見ていたのですが、両眼2.0でこの6人の中で1番視力がいいAちゃんだけが、キョロキョロしています。

「え? どこ?」

「ほら、その林の影のとこ」

「え、分かんない。どこ?」

「いるじゃん、何人も」

「ええ? 見えないよ、どこどこ?」

「なんで? あそこにいるじゃん、ほら」

「ええ? マジでどこにいるの?」

 私達5人が口々に説明しても、Aちゃんは首を傾げるばかりです。

 結局、Aちゃんは私達の中で一番背が低い子だったので、窓の高さと角度的に、小さいせいで見えなかったんだろうとからかうように結論付けました。


 その夜のことです。

 霊感が強いというBちゃんが、部屋のメンバーそれぞれに、霊感がどれくらいあるか話してくれました。

 Bちゃんいわく、大体の人は多かれ少なかれ霊感を持っているのだそうです。

 Bちゃんは、真っ先にCちゃんに言いました。

「Cちゃん、少し見えるくらい霊感があるでしょう」

「え、なんで分かったの? 誰にも言ったことがないのに!」

 言い当てられたCちゃんは、とても驚いていました。

 Cちゃんいわく、たまに金縛りにあったり、人死にがあった場所でぼんやりと靄のような何かが見えることがあったりするということでした。

 霊的な経験のない私ともう2人も、見えるほどではないにしろ、少しは霊感があると言われました。

 そして、視力がいいことが自慢の小柄なAちゃんは、この6人の中で唯一、全く霊感がないとのことでした。

 霊感が全くない『レイ感』の人というのもなかなか珍しいそうです。

 Bちゃんから『Aちゃんは0感だから、かえって幽霊に関わることはない』と、お墨付きをもらっていました。

 Aちゃんは、こんなに目がいいのに幽霊は見えないのかと少しがっかりしていて、皆して笑いました。


 その翌日の宿泊先は、中庭に教会があるホテルでした。

 初日は班員6人が同じ部屋の大部屋でしたが、その日は3人部屋のため2部屋に分かれなければなりません。

 話し合いの末、目のいい0感のAちゃん・霊感の強いBちゃん・やや霊感強めのCちゃんが同室で、私は残りの2人と同室になりました。

 その夜の自由時間のことです。

 お風呂上がりの歯磨きなどを終え、同室の3人でのんびり話していたところ、Aちゃんが私達の部屋に飛び込んできました。

「ちょっと、こっちの部屋来て! 早く!」

 慌てた様子でそう言って、私達3人を引っ張り出すのです。

 Aちゃん達の部屋に行くと、窓際にBちゃんとCちゃんが寄り添って立っていました。

「そんなに慌ててどうしたの?」

「いいから、窓から教会のドアを見て」

 私が尋ねれば、Aちゃんが答えました。

 彼女達の部屋からは、中庭にある教会の扉がある壁が見えたのです。

 私の部屋のメンバーで教会の扉を見てみますが、特にどうということもない、普通の扉です。

 両開きの木製の扉が、しっかりと閉ざされていました。

「普通のドアだけど、どうしたの?」

 代表して私が聞けば、今度はBちゃんが口を開きました。

「閉まってた? 開いてた?」

「え、閉まってるけど?」

 ねえ? と同意を促すように聞けば、私の部屋の2人も頷きました。

「よく見て。すこーし開いてたりしない?」

 Cちゃんに聞かれて3人揃ってもう一度凝視してみますが、ぴったりと扉は閉まっています。

「いや、閉まってるよ。どうしたの?」

 私が聞けば、その部屋の3人は顔を見合わせてから気まずそうに事の次第を話し始めました。


 私達が呼びだされる2~3分前のこと。

 中庭がライトアップされて綺麗だから写真を撮ろうと、Bちゃんが教会を見ていました。

 すると、扉がほんの少し開いていることに気づいたのです。

 Bちゃんは、こんな時間におかしいなと思い、見間違いかもしれないと、傍にいたCちゃんも呼んで教会の扉を見てもらったそうです。

「ねえ、教会のドア、ちょっと開いてない?」

「本当だ、締め忘れかな?」

「あ、やっぱ開いてるよね」

 2人でそんな話をしていたところへ、洗面所で歯磨きをしていたAちゃんが戻って来ました。

「何見てんの?」

「ほら、教会のドア」

 Bちゃんが教会を指さしました。

「ドアがどうしたの?」

「ちょっと開いてるから。不用心だなあと思って」

 2人が説明するとAちゃんは怪訝な顔をします。

「2人とも何言ってんの? 

 Aちゃんはこのメンバーの中で1番視力が良く、両眼2.0です。林に遮られた昨日のお墓と違い、遮蔽物の無いこの距離で、見間違うはずがありません。

 そこで、確認のため慌てて私達を呼んできたという話でした。

 つまり、霊感の強い2人には開いて見えて、霊感がほとんどなかったり全くなかったりする4人には閉まって見えたという不思議な扉だったのです。

 結局その後、何か出たというわけでもないのですが、うっすらと不気味さを残してその夜を終えました。


 私は、修学旅行を終えた後で、ふと思ったのです。

 初日にお墓で見た人の列を、6人の中で1番視力がいいはずのAちゃんがどうして見つけられなかったのだろうと。

 もしかしたら、、見えなかったのかもしれないと。

 あの列は、本当にお墓参りの人だったのでしょうか。

 それとも他の何かだったのでしょうか。

 私には、知る由もないことです。

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0感少女 佐倉島こみかん @sanagi_iganas

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