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 同盟海外共同統治領の密林を這いまわり、大怪我を負わされて何とか任務を達成し、這う這うの体で拓洋に戻ると、我らが上官『軍装の麗人』あるいは『銀髪の女狐』ことトガベ・ノ・セツラ少将閣下から俺たち二人は分厚い封筒を賜った。

 硝子細工のような銀髪を窓から差し込む光で輝かせ、悪魔的なまでに冴え冴えと美しい面貌に笑みを浮かべながら、少将閣下曰く。


「今回の作戦、思わぬオマケが付いて来たが概ね大成功だったと言えよう。よくやった。これは私からのささやかな褒美だ。受け取ってくれ」

 

 中身を改めると、南方大陸鉄道の二等寝台の乗車券と現金百圓(二十万円)ほど。切符の行き先は『迂恕うど』になっている。


「近々、長期にわたる任務が貴様らに課せられることになる。それまでは多少時間があるから、シスル、君の姉上の墓参りに行ってくるがいい。ライドウ少佐、貴様は保護者として彼女に同行してやれ。どうせ休暇と言っても月桃館でゴロゴロしているか、酒を飲むか女を買うかしかないのだろ?時間は有意義に使え、命を助けられたのだろ?恩返ししてもバチはあたるまい」


 なんて言い草だと思いつつも「はぁ、では喜んで頂戴いたします」と背広の懐に治める。

 シスルはキョトンととして手元の封筒と少将閣下の顔を交互に眺め「あ、有難う。ございます」

 その様子を愉快気に眺めながら、少将閣下はまた失礼極まる物言いを成されたわけだ。


「なに、礼には及ばん、直属の上官が至らぬから、代わりに高位の者が代わりに報奨を与えただけだ。逆に二等寝台を勘弁してもらいたいところだ。原資は私の個人的懐だからな。少将と言えど独身者の俸給は大したことないのだよ」


 はいはい、もう好きにいってちょうだいな。


 ホンの八か月前から俺の相棒となったシスル。

 その前は俺を姉の仇と騙されて付け狙う、ちょいと間抜けで相当手ごわい刺客だった。

 姉の死を看取り、懇ろに葬ったとのは俺だと本当のことを言ってやると誤解が解け、逆に自分の不覚を詫び恩義に報いるために俺の下で働くと言い出し、帝国陸軍雇員の身分を得て今、俺の下で特務機関員となっている。

 で、コイツの姉終焉の地が切符の行く先、深翠州内陸部の鉱山都市、迂恕うどだ。

 遥か西の彼方、連合植民地中央大山脈北稜にある故郷を、寒波による飢饉から里を救うため出稼ぎに出かけ、そこで人買いに騙され売り飛ばされたシスルの姉は、街の倉庫に監禁されていた同じように騙され売られる娘たちを助けるために、十三人もの屈強なゴロツキ相手に果敢に戦い、七人も斃した末に力尽き捉えられ惨たらしく嬲り者にされたあと息を引き取った。

 たまたま、ある部族に戦争協力と引き換えにその娘たちを救出するように頼まれた俺とその部下が、倉庫に突入し人買い共を一掃して娘たちを救出する事は出来たが、彼女だけは間に合わなかった。ただ何とか死に目には間に合い、形見の品としてその娘の角を預かることが出来た。その角が、いまシスルの首からぶら下がっている奴だ。

 今、角の元の持ち主であるシスルの姉は、迂恕の街にある随神道ずいしんどうの寺の墓に眠っている。

 その墓参りをしようって言うのが、今回の旅の目的だ。

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