最終話 もう1人の最強


〜〜僧侶リリー視点〜〜 



アスラさんが大怪我をして数ヶ月が経ちました。

賢者シシルルアさんの薬草は抜群の効き目。

怪我はすっかり回復して頬に擦り傷が残る程度です。


スタット王国がハンハーグの毒によって滅ぼされかけたことは公には内緒。

でも今後のことがあるからと、サレンサ国王には相談して、小川に毒を散布されないような管理体制となりました。

当然、その作業の分、城兵の仕事は忙しくなるわけで、仕事のできるタケルさんは兵士長のロジャースさんと日夜忙しくされています。


それでもなんとか結婚式の準備をして、合同結婚式を開催しました。

アスラさんの式は別室で細やかに行います。

なにせ、アーキバ国のカナン姫はお父上様がアスラさんに殺されていますから。

そんな人をみんなで祝うのは、中々難しい。

だから、タケルさんと妻の私達だけで祝いました。


虎逢真さんとビビージョさん。

タケルさんとユユちゃん。

そして、アスラさんとヤンディさん。


3組の結婚式は無事終了。

ヤンディさんは大喜びで、滝のように涙を流していました。

思い出に残る最高の結婚式です。








それから数ヶ月後。



ーータケル邸ーー





ドォオオンッ!!




この大きな音はアスラさんがお土産のお肉を持ってきてくれた音です。


玄関には立派なツノの生えた鹿が横たわる。



「美味いマンモス鹿が獲れたからな。土産だ」



ふはぁ〜〜。体長10メートルはあるでしょうか。

かなり大きいです。

アスラさんはカンザサの森で狩りをして暮らしています。

だから、こんな獲物は簡単に獲れてしまうみたい。

まぁ、アスラさんだから、簡単なんだろうけど。



「タケルは?」


「リビングでお茶を入れてますよ。今日の御用はなんでしょうか?」


「うむ。国の近くに凶悪な魔物を見かけてな。城兵に報告しておこうと思ったのだ」



確か、この前も似たような内容だったと思う……。

どうせ用事なんて理由はなんでもいいんだ。

タケルさんに会いたいだけなんだから。


素直に言えばいいのに。

でもアスラさんは、遊びに来た、とか、会いたいから来た、とかは絶対に言いません。

本当に意地っ張りです。


アスラさんが遊びに来る度にお土産を持参されるので、我が家の食料事情は潤ってます。

いや、潤い過ぎと言ってもいいでしょう。

シシルルアさんはカンカンです。



「ちょっとアスラ! 森のお肉はこの前のタイガー猪の肉が半年分余ってるのよ。もう我が家の冷凍倉庫はパンパンよ!!」


「おお……そうか」


「今度来る時は木の実にしてちょうだい! 丁度切れてるから!」


「うむ。わかった」



扱いに慣れてる……。

妻のみんなはアスラさんを怖がっているのですが、シシルルアさんだけはガンガン攻めます。

こうして見ると、アスラさんって素直な人なのかな? シシルルアさんに言い返したりしないな。試しに私も頼んでみよう。


「アスラさん。私は木苺が好きなんですよね」


「木苺だな。わかった。今度採ってこよう」


あっさり受けてくれた!

凄く優しい人なのかもしれない。

ヤンディさんが夢中なのもわかるな。


さて、このまま跡を付けて、2人がどんな会話をするのか盗み聞きしちゃおうかな。

きっと毎日来るくらいだし、さぞやトークが盛り上がっているんだろう。


アスラさんはタケルさんを見るや、眉を上げて喜ぶ。

と言っても、わずかに上がるだけだから、初対面だと怒っているように見えるかも。


タケルさんも似たような感じ。

笑顔ってわけでもないけど、嬉しいような。そんな顔。

そして、2人の挨拶が始まる。ここからトークに花が咲くんだな。


「おう!」


「おう!」


「「………………」」



短かッ!

挨拶短かッ!!

男の人ってこんなもんなのかな?


お茶を嬉しそうに入れるタケルさん。

それをズズズと飲むアスラさん。



「………………………………」



「………………………………」



「………………………………」



「………………………………」



「………………………………」



「………………………………」




沈黙長ッ!!

私だったら絶対に耐えられないよぉ。

よく黙っていられるなぁ。


2人の沈黙は続く。


うーーん。楽しいんだろうか?

でも、なんだか2人共、機嫌が良さそうだなぁ。

お互い余計な会話はしない主義だから、自然と無言の時間が長くなるのかな?


アスラさんはティーカップを置いた。


「そういえば街に肉を売りに行った時にな」


お、なんの話だろう?


「壁に貼ってあるビラを見たんだ」


「なんのビラだ?」


「城兵の募集だ」


「ああ、今は人が足らないんだ。ハンハーグが毒を小川に流しただろ? あんな事件は2度と起こしちゃいけないからな。巡回業務が増えた」


「俺も城兵になろうと思う」


えええ!! びっくりです!!


タケルさんは眉を上げた。


「お前は掃除人じゃないのか?」


「もうとっくに辞めている」


「ふ……ふふふ……。そうか……は辞めたか」


「ああ、もうは辞めだ」


「「 ふふ……ふふふふふ 」」


そうですね。アスラさんはもう人間の敵じゃないですからね。

人間を掃除する必要はなくなりました。

2人は平和を実感して、思わず笑ってしまうんだ。



「じゃあ、アスラは城兵になってみんなを護る仕事をするんだな?」


「ふん! そんな目的じゃないさ」


「どんな目的なんだ?」


「貴様だけが最強の城兵なんて気に食わん」


「別に名乗っているわけではないが?」


「俺が貴様を超えて最強の城兵になってやる」


タケルさんはニヤリと笑った。


「俺を超えるなんて大変だぞ?」


「ふん! 望むところだ」


「スタット王国の仕事と並行して、テラスネークのために蛇の国を造らなければならない。できるか?」



「お安い御用だ」


「ほう……。じゃあ俺は、オータクを手伝ってアーキバ国の建国に専念しよう」


「アーキバと蛇の国。どちらが平和で住みやすい国になるか、競争だ」


「ふ! 負けはしない!」


「ふ! 俺だって!」


「「 ふふふ…… 」」




2人は見つめ合って笑いました。








これから2人の壮絶な戦いが始まります。









でも、とっても平和で、誰1人、絶対に傷つきません。








この世界は末長く平和になるでしょう。








だって、最強の城兵が、2人もいるんだから。






〜〜おわり〜〜





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ご愛読、ありがとうございました。

城兵の冒険はまだまだ続きますが、一旦ここで終わろうと思います。


長い3章でしたが自分の好きを詰め込んだお気に入りの話です。

みなさんはどう思ったでしょうか?

よければ感想、星の評価いただけると嬉しいです。


面白いと思ってくれた方には朗報です。

↓こちらは次回作。

今回も自信作ですよ\(//∇//)\



貧乏剣士と成長する魔剣〜魔剣に呪われた俺。A級パーティーからダンジョンに置き去りにされる。奴らは俺の預金通帳まで奪った。なるほど、この魔剣はレベルが上がるのか。お前達、首を洗って待ってろよ〜

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好評をいただいておりますので是非読んでいただけたらと思います。

読者さんに面白いと言わせたい! その一心で書いております。


今後とも、私の作品をよろしくお願いします。

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俺、城兵だけど無双する〜「出てけ無能!」と勇者パーティーを解雇された俺だが、実は【闘神の力】が使えてしまう。なに、俺の実力に気がついた? 戻ってきて欲しい? ……断るッ!!〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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