第196話 アスラのけじめ



〜〜タケル視点〜〜


アスラは神樹操を使ってハンハーグを縛り上げた。



「このまま貴様を殺してしまってもいいがな。もうそんなことはしない」


「お、臆したかアスラァ。殺人こそが生き甲斐だっただろうがぁああ!! このまま殺せぇええええええ!!」


「……お前。グウネルとは上手くいかなかったのか?」


「へん! あんないやしい美食ギルドの人間の配下に下るなんて、死んだ方がマシだ!!」


「だからアスラ軍の残党を連れて、自分だけの国を作ろうとしたのか……」


「チャンスはやった。お前がタケルを殺していれば……。お前が魔神として復活してくれれば……。も、もう一度、私は奴隷になったんだ!!」


そこまで殺戮の魅力に取り憑かれたのか……。愚かな。


アスラは眉尻を下げた。

凄く悲しそうだ。


アスラは神樹を緩め、ハンハーグを離した。





「 殴 れ 」





一同、目を見張る。

一番驚いていたのはハンハーグだった。


「どういうつもりだ? アスラ」


「お前が好きなように殴らせてやる」


「は?」


「抵抗はしない。気が済むまで殴れ」


「は……ははは……。ふ、ふざけるなぁああああああッ!!」



バシンッ!!



ハンハーグの拳がアスラの頬に当たる。


「グフッ!!」


その唇から血が垂れた。



「……そんなものか?」


「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁあああああああああッ!!」



バシンッ!! バシンッ!! バシンッ!!



ハンハーグは何度も殴った。



「きゃああああああああああッ!! アスラ様ぁああああ!!」



ヤンディは悲鳴を上げた後に腕をまくった。

その顔は怒りに満ち溢れている。



「ハンハーグゥウウウ!! ぶち殺してやるぅうううう!!」


「タケル! 頼む!!」



やれやれ。嫌な頼まれ事だな。


俺はヤンディの体を抑えた。



「てめぇタケル!! お前もハンハーグの味方かぁあああ!?」


「違う! 落ち着けヤンディ!!」


「ざけんなッ!! これが落ち着いていられるか!! 私のアスラ様に許せねぇ!! ハンハーグはぶっ殺してやるぅうう!!」


「これはそういうんじゃない。アスラのけじめだ!!」


「け、けじめぇ?」


「そうだ。ハンハーグの人生を狂わせた、アスラ流の罪滅ぼしだ。だから、見届けてやろう」


「そ、そんなぁ……ア、アスラ様ぁああ」



アスラは安心した。



「邪魔者はいなくなったぞ。ハンハーグ。思う存分やれ」


「こんなことで貴様の罪が許されるかぁあああああああああああ!!」



バシンッ!! バグンッ!! バシンッ!!



ハンハーグはアスラの頬を叩き、腹を蹴り、顔面を強打した。

顔面の色は紫に変色し、体中から血を出した。しかし、ハンハーグの手は止まらない。


「ふざけるなよアスラァアアア!! こんなことで、こんなことで貴様の罪が許されるかぁああああああ!!」


「ぐふぅ……。そ、そうかもな……」


ハンハーグはナイフを取り出した。


いかん! 無抵抗のアスラなら、あんなナイフでも命はない!!



「だったら死ねよ。死んで詫びろぉおおおおおおおおおおおお」



俺が身構えるのと同時。

アスラは神樹操でそのナイフを奪った。



「悪いな……。それはできない。こ、こんな俺でも死んだら悲しむ奴らがいるんでな」



ハンハーグ逆上。



「ふざけるなぁああああああああああ!! 都合のいいこと言いやがってぇええええええ!! 貴様は何人の命を奪ってきたんだぁあああああ!! 何十万、いや、何百万の命をををををををををッ!!」



暴行は続く。



「無作為に、罪のない者を殺してきた!! それなのに自分だけ死にたくないだとぉおおおおお!! ふざけるなぁああああああああああ!!」



アスラの顔はボコボコに腫れ上がっていた。もう目を開けているのかつぶっているのかさえわからない。

それでもハンハーグにしがみつく。





「…………す、すまん」





それはハンハーグだけに宛てられた謝罪の言葉ではない。

アスラが殺めてきた、全ての者への言葉だろう。


ハンハーグの怒りは数十分と続いた。

やがて彼の拳の肉がえぐれて、自分の血かアスラのものかわからなくなった時、手は止まった。



「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」



ハンハーグはただ肩で息をするだけ。

アスラは倒れていたが、気を失うまいとして震えていた。腫れ上がった唇は、もう声を出すことすらできない。

気を失えばどれだけ楽なことだろうか。


ヤンディとリリーはボロボロと涙を流し、嗚咽が止まらなかった。

そんな中、俺はアスラをゆっくりと抱きかかえた。



「ハンハーグ。お前の拳……。もう骨が折れている」


「チィッ!! きょ、今日はこのくらいで許してやる!!」


今日は……だと!?


「私の苦しみは貴様を殴っただけでは消えはしない!! 帰るぞ!!」


部下を引き連れて振り返るハンハーグ。

俺は咄嗟に心の城ハートキャッスルを発動した。

ハンハーグとその部下達は城の屋根に乗る。

見下ろして絶叫。



「ひゃぁあああああああああ!! た、高いぃいいい!!」



その高さ100メートルを超える。

俺も一緒に屋根の上に立った。



「「「ひぃいいいいいいい!!」」」



部下がその高さに悲鳴を上げる中、俺はハンハーグを睨みつけた。



「貴様が俺を殺そうとしたこと、スタット王国を滅ぼそうとしたこと。アスラに免じて許してやる」


「た、高いぃいい。お、降ろしてくれぇえええ!! わ、私は高い所は苦手なんだぁあああああ!!」


「約束しろ! 今後一切、俺の仲間に手を出さないということを!!」


「す、するぅ! 約束するから降ろしてくれぇええええええ!!」


「本当だろうな?」


「ほ、本当だ!! 実はアスラを殴りまくって気は晴れていたぁああああああ!!」


「嘘だったら……だだじゃおかないぞ?」



俺は城を更に大きくした。その高さは500メートルを超える。





「あぎゃぁああああああああ!! 約束するぅ! 今後一切手を出さんからぁああああ!! い、命をかけるからぁあああああ!! 降ろじでぐでぇぇええええええええええ!!」




よし、これくらいにしてやるか。


俺は心の城ハートキャッスルを解除した。

ハンハーグと部下達は元の地上へと戻る。



「助げでぐでぇええええ!! 私は高い所はダメなんだぁあああああああああああ!! ひぃいいいいいいいいい!!」



ハンハーグは涙を流し失禁していた。



「もう戻ってるぞ」


「ハッ!? い、いつの間に!?」



俺はもう一度睨みつける。



「約束……。わかってるだろうな」



ハンハーグ達は悲鳴を上げて立ち去って行った。




「「「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」」」



やれやれだな。


アスラの傷は酷い。体中血だらけだ。

早く手当しないとな。


抱き上げた姿にアスラは気付く。



「ま、また……。こ……こんな……助け方……し、しやがって……」


「無茶したな……アスラ」


「へっ…………た、大したこと……ね、ねぇ」



そう言って気絶した。


少し休んでろ。直ぐに手当してやるからな。



俺達は急いでタケル邸に帰るのだった。




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次回。最終回です!

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