最終話 ラストのキス

 あれ程文句たらたらだったユニットバスに半身はまっている。

 地球のカウントダウンは後五分だとテレビが報じていた。

 今はもう消滅後の世界なのだろうか?


「他に人を見掛けたか? 美音子さん」

「いえ、思い当たらないわ」

「ここだけがそうならいいが」


 彼が顎を触って考え出した。


「まさか、私達がアダムとイブではないわよね?」

「可能性がない訳ではない」


 私は息を吞む。


「透哉くん、キスして……!」

「ええ? 何を考えているんだ」


 彼は私の頬を両手で包み込む。


「愛し合っているのなら、キスをして、長く甘いそれでいてビターなキスをして」

「そうか、美音子さん。二人は別れないから、大丈夫だよ」


 彼は抱き締めてくれた。

 本気の恋愛をもしかしたら初めてしてくれたのかも知れない。

 けれども、あまりにも優しく包んでくれたので、触られた感覚がない。


「二人はいつまでも、末永くいたいね」


 彼のあたたかい唇が重ねられた。


「もう、俺には、美音子さんだけだからな」


 キスは黙ってするものだが、最後だから、気持ちを打ち明けたい。


 ガタリと彼の背から物音がする。

 もう一度ガタリとするので、彼の肩越しに見やると、既に香水の似合わない手が伸びていた。

 ――助けて。

 聞こえたような気のせいなような不思議な声があった。

 地球最後を瓦礫でキスの組み合わせか。

 それは、哀愁と満足感に愛情を感じる。


 キスをしながら二人は光の粒のように消えて行った。


「地球消滅から魂が飛ぶまで、長い長い五分間の結婚式を挙げたようだな」


 透哉くんにしては、キザな台詞を贈るわ。


「それで満足しないと、バチが当るね」



 いつまでも、一緒……。



 














Fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつまでも、一緒 いすみ 静江 @uhi_cna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ