第3話 三すくみ

「とにかく、入れて欲しい。謝る! この通りだ、美音子さん」

「土下座なんて一文にもならないわ。それよりも、日頃、誰が本命女の愚痴を聞いていると思っている? 勿論、私よ」


 私は、ここぞとばかりに胸に手を当てて体を反らした。

 仕方なく、いつも彼といちゃついている部屋へ本命さんも一緒に通した。

 彼女の気持ちが知れない。

 彼氏が何をしに、妾さんのお家に寄っているのかだなんて分からないものか。


「地球も最後かも知れないわね。後僅かで、データ計測中とニュースでカウントダウンが始まった」


 私は、どこかでこの世の中が無くなってしまえばいいと思っていた。


「きゃあん。愛香、耐えられない!」

「皆同じだよ、愛香さん。俺も最後の日をここでこの三人で迎えるなんて、思いもしなかった」


 バスのお水が溜まった。

 コックを捻って止める。

 電気ポットにも飲料水が入っている。

 これでミイラは免れるかな。


「日頃の行いよ」


 私は、まだ水道が出るようなので、白湯を客用茶碗に入れて出した。


「新井さん、透哉くんと私は結婚指輪を頼んで来た所よ。今は名前や年月の刻印待ち。例え指輪を受け取れなくても、後悔などしない」

「本当なの? 透哉くん!」


 彼女が透哉くんの首が取れる程、ガタガタと肩を揺すった。


「そして、これが婚姻届。私はご両親にも単独で会いに行って来たわ。二人の記入漏れはなし」

「嘘でしょう! 透哉くん? 私のこと、本命だからといつも抱いていたじゃない!」


 最高に気分がいい。

 これが、ざまあみろとの台詞がしっくり来るものだ。

 いっそ、高笑いもしてやりたい。


「本来なら明日、月曜日に開庁を待って二人で行く予定だった届出なんだけれども、もう後暫くだわ。この面子で終わりそうね」


 ズ……。

 お尻が浮いたかのように地面が天を蹴った。

 ズドドドドーン!

 激しい縦揺れが続いて、私の格安物件などどうにでも吹き飛ぶと思っていた。


「知っているわ、ここ」


 家のあった所だ。

 私はがま口に食われたように動けない。


「美音子さん、愛香さん、無事か?」

「ええ、透哉くんはどこなの? 愛香さんも」


 暫く耳を澄ましたが、瓦礫の崩れ行く音で掻き消される。


「透哉くん」


 彼に、私はユニットバスの中に半身放り出されたので、直ぐに引き上げられた。


「愛香さーん! おかしいわ。近くに居たのに愛香さんの声は聞こえない」

「二人で捜しましょう」


 次第に陽も暮れて行き、夕闇になって来たので、調査を打ち切った。

 風が寒い。

 転げただけで破損の具合が低いユニットバスに入ろうと決めた。

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