企画入賞レビュー「人はみな旅路の中にいる」


言うなれば臨場感が非常に高い紀行文学。すなわち、読めばあたかも本当の旅行へ出かけたかのように主人公が旅先で味わったものを追体験できる文学作品です。『土佐日記』や『更科日記』などが有名でしょうか。このジャンルの特徴として挙げられるのは、風景描写、心理描写への深いこだわりと、力の入れようが半端でない点です。

軍人である親友から預かったドッグタグ。それを故人の故郷にあるという「ステンドグラスが素敵な教会」へと持っていく。内容に触れるならただそれだけの話なのですが。
同じ軍人である彼の安否。彼への思いを織り交ぜた不安。田舎の豊かで情緒的な風景。そういったことを通じて「人生とは何か、旅行とは本来どのような行為なのか」を読み手へ考えさせる深い内容になっています。そして、ただ主人公が物思いに浸るだけの「独白」では終わらず、約束を果たした主人公には思いがけない「導き」が待っています。なんと、文学作品にありがちな投げっぱなしの曖昧な結末ではなく、我々をきっちり納得させる形で物語のクライマックスを盛り上げることまでやってのけたのですから! 見事としか言いようがありません。

人生はいつ何が起こるかわからない。もろく刹那的でいつ壊れても不思議じゃない日常の何気ない幸福。それがどんなに貴重であるか。そういったメッセージの込められた作品は何もこれ一つではありません。されどここまで丁寧かつ高い技術で描かれた職人気質の作品は唯一無二でした。間違いなく、この御方もまた「在野の天才」
入賞に相応しく、どこへ出しても恥ずかしくない名作だと感じました。

何もテレビや雑誌で紹介された観光名所に出かけていくだけが旅行ではありません。
自分の足でおもむき、その土地ならではの素敵な場所と偶然の出会いを果たす。もしかするとそれが旅行の醍醐味なのかもしれません。

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