挿話4 クビになった魔法学校一年A組元担任メイソン

「は? あの……失礼ながら、今何と仰いました?」

「だから、君はクビだ。ライリー君……いや、ライリー様の師匠が誰か分かった。私どころか、例え理事長であっても手が出せない超大物だ」

「あの、普通の中年男性が……ですか!?」

「普通の……って、まさかライリー様の師匠に会ったのかね!? 失礼は無かっただろうねっ!?」

「ま、まさか。遠くから見ただけですよ。か、会話すらしておりません」


 ライリーを見つけた翌日、突然学校長に呼び出されたかと思うと、与えられた期限を無視して、突然解雇を言い渡された。

 学長曰く、事実上ライリーを戻す事が不可能だから……と。

 しかし、見た感じは普通のオッサンでしかなかったのだが、魔法学校の理事長ですら手が出せないとは、一体何者なんだ!?


「とにかく、話は以上だ。メイソン先生、この学校から去ってもらおう」

「お、お待ち下さい。その、師匠が大物だとしても、本人が学校へ戻りたいと言えば……」

「ダメだ。万が一にも、あのお方の機嫌を損ねるような事があってはならない。今後、君がライリー様に接触を試みようとした場合、この学校のみならず、この国で魔法に関する職には就けなくなると思いたまえ」

「そんな……」


 学校長から荷物を纏めろと指示され、しぶしぶ教員室へ行くと、既に私の机が綺麗に片付けられていた。


「あ、メイソン先生。学長から聞きましたよ。なんでも、学校を辞められるそうですね」

「いや、これは何かの間違いで……」

「先生の荷物は、まとめて運ばせているので、校門の前で待っていただければ良いかと。では、お元気で」


 隣の席の先生が、一切話を聞かずに私を教員室から押し出し、鍵まで掛けた。

 くそぉぉぉっ! 長年勤めて来たというのに、何という仕打ちだっ!

 攻撃魔法の一発や二発でも、打ち込んでやろうかと思いながら、荷物を受け取る為に校門へ行くと、


「メイソン先生。運が悪かったですね。あのライリーという少年が師事したのは、あの魔王らしいですよ」

「ま、魔王っ!? あの魔族の王で、我が国と停戦協定を結んでいる……あの!?」

「えぇ。聞いた話によると、ライリーという少年の才能をすぐに見極め、あっという間に一番弟子にしたとか。魔王の娘さんとも親しいそうなので、将来はこの国の中枢に意見出来る人材だったかもしれませんな」


 俺の荷物を持った用務員の男が、世間話でもするかのように、とんでもない話をしてきた。

 あのライリーが魔王の弟子に……くそっ! こんな事……こんな事など許してたまるかっ!


「メイソン先生。これから、実家に帰られるのですかな? 道中お気を付けください」

「だ、誰が……実家? なるほど。その手があったか」


 ライリーを呼び戻す為に集めた資料の中に、実家の情報があったはずだ。

 俺がライリーに接触する事は禁じられたが、その両親と話す事は禁じられていない。

 ライリーの実家へ行き、両親から学校へ戻るように話してもらうか、最悪両親を人質にとって脅せば……これだっ! これならいけるっ!

 早速資料を調べ、ライリーの故郷……くそド田舎へ向かう。

 数日掛けて、ライリーの実家へ辿り着くと、


「失礼。ライリー=デービスのご両親は居られるだろうか」

「はーい。何でしょうかー?」

「私は魔法学校の……け、賢者様っ!? ど、どうなっているんだっ!?」


 何故か家の中から、二十年前に災厄級の古代竜を倒した大賢者様が現れた。

 既に三十代半ばのはずなのに、二十代前半としか思えない容姿だというは、一体どういう事なのだろうか。


「アナター! ライリーが進学した学校の先生? が、来ているんだけどー」

「ん? うちのライリーに何かあったのか?」

「さ、最強の勇者……お、お二人がライリー……いえ、ライリー様のご両親だったのですか!?」


 賢者様が声を掛けると、奥から世界を救った勇者様も出てこられて……しかも、こちらも若い!

 だ、ダメだ。両親を人質にして脅迫する作戦は無理だ。

 私などが勝てる相手じゃない。

 ひ、一先ず、このお二人からライリーに学校へ戻るように言ってもらおう。


「じ、実は……ライリー様が学校を辞められ、魔王の弟子になっておりまして。お二人から学校へ戻るように説得していただけると……」

「ん? ライリーが自分でそう決めたんだろ? だったら俺たちがどうこう言う事はないだろ。ライリーの人生だ。俺たちから何か言うつもりは無いな」

「し、しかしですね。相手はあの魔王で……」

「あぁっ!? だったら何なんだ。ライリーの決定に文句があるなら、自分で言いに行けっ! 俺たちはライリーの意志を尊重する。以上だ。帰れっ!」

「そ、そんなぁぁぁっ!」


 くっ……相手は世界を救った英雄たち。

 まともに戦えば勝てないが、こんな時の為にと、裏ルートで手に入れた闇の薬……これを使ってやるっ!


「クソがぁぁぁっ!」

「うせろ! お前じゃ、俺たちどころか、ライリーにすら勝てねぇよ」


 勇者にそう言われた直後、いつの間にか吹き飛ばされていて……って、殴られたのか!? 拳なんて見えなかったぞ!?


「おかえりくださーい。……ランダム転送」


 賢者がそう言った直後、


「え……ちょっ、待ってくれ。ここは……ここは一体どこなんだーっ!」


 気付けば、周囲に氷しかない土地へ飛ばされていた。

 誰か……誰か助けてくれーっ!


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ハズレスキル≪ためる≫しか使えん奴などいらん! 初日で魔法学校を退学にされたけど……知らないの? 魔力をためて、ためて、ためれば、八倍の威力でドラゴンも一撃で倒せるんだけど。……あ、もう遅いからね? 向原 行人 @parato

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