第154話 迎えてくれた日常

 『リターン』の魔法はすぐに俺たちをクレシャスの町の前まで送り届けた。

 何とも便利な世界だ。科学では到底なし得ない領域だろう。


 見慣れた懐かしい町の入口が見える。

 ジャスティンを連れて魔王城へ行くためベネディクテュスと待ち合わせをした時は町に入らなかったし、一人で戻ってきた時はディーナ達に状況を報告しに来ただけ。

 全てを終え皆で帰ってきた今とはまるで違う。とても感慨深い光景だった。


 ん?


 と思ったが何か違和感を抱いた。

 よく見ると、町の入口付近に、見慣れない大きな物体が存在していた。


「あれは何でしょうか?」

 俺の言葉に、皆が視線を向けた。


 ただ、俺は言った矢先、それが何か分かった。

 ステータス画面が表示されたからだ。


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 名前 古代竜ゼナエフロック

 レベル 165

 種族 古代竜

 HP 39233/39233

 MP 21949/21949

 攻撃力 11671

 防御力 12812

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 この世界に三体いるという古代竜の一体。

 全身を覆う鱗は青く、前の世界で見た航空機より一回りも二回りも大きい。


 俺はマテウスが気になり様子をうかがうと、あれが何か気づいていると表情から読み取ることができた。


「ゼナエフロック様……?」

 マテウスは眼を見開きながら、言いづらそうな名前を呟いた。


「おい! あれってドラゴンじゃねえのか!?」

「だから、あの方々を普通のドラゴンと一緒にするんじゃない……」


 マテウスは、肩を揺すってきたジャスティンに強く言い返すこともできず、そのまま古代竜へ近づいていった。


「ゼナエフロック様……なぜこのようなところに?」


 翼を畳み、凛とした姿勢で遠くを見据えている古代竜の足元まで来ると、マテウスはそう尋ねた。


 古代竜ゼナエフロックはほとんど首を動かさず、眼だけをマテウスへ向けると、重厚な声を響かせた。


「ワシの名を呼ぶ貴様は何者だ? ――――ハーフの竜族? そうか、貴様はパウロのとこの」


「は! 私は碧竜族へきりゅうぞくパウロの息子、マテウスと申します」

 マテウスは膝を着くと、

「して、このような人間の町に、どのようなご用件でしょうか?」

 と、頭を下げたまま再度尋ねた。


「ワシは、アリシア様の命によりこの町を守護しているところだ」


 ……………………はい?


 なにか嫌な予感がする。

 マテウスはうつむいたままで表情が分からない。


「そ……そ……それはどういう…………」

 言葉を上手く発せないマテウスの動揺が伝わってくる。


「ゲオ様! お出迎えができず大変申し訳ございません!」


 どこからともなくアリシアの声が聞こえてきた。


「アリシアお姉さま!!」

 すぐにメイベルが晴れわたる声をあげる。


 俺はメイベルと同じように空を見上げアリシアを探した。

 しかし、視界に入ってきたのはメイド姿の女神ではなく、巨大なドラゴンだった。


「アウレ……サンドリウス…………様?」

 マテウスも空を見上げている。


 舞い降りてきたのは、以前見かけた古代竜アウレサンドリウス。

 ゼナエフロックより更に大きい、白銀のドラゴンだ。


「ゲオ様、お帰りなさいませ!」


 古代竜アウレサンドリウスの頭の上から、アリシアが顔を出した。


「アリシアさん?」


「は!」

 アリシアは古代竜アウレサンドリウスから飛び降り、優雅に着地した。


「お姉さま!」

 メイベルがすぐにアリシアの胸に飛び込んだ。


「よくぞ戻りました。お役目ご苦労様」

 女神が天使を優しく撫でる。


「えっと……アリシアさん。この古代竜たちはいったい……?」


「これらは古代竜のアウレサンドリウスとゼナエフロックでございます。ゲオ様がお留守の間に現れ、我らに敵対行動をとろうとしましたが、殺すようなことはせずしつけておきました」


「しっ!? しっ!? しつ……!!??」


「お、おいマテウス! 大丈夫か!?」

 様子のおかしいマテウスをジャスティンが心配している。


「アーハハハハッ!!」

 突然、エルキュールが腹を抱えて笑いだした。


「エルキュールさん?」


「ゲオっち、これは笑わずにはいられないさ! さすがの古代竜も、アリシアちゃんの美しさには敵わなかったみたいだね! ほんと、ゲオっちと出会ってから、ボクの常識がどんどん崩れていくよ!」


「ははは……」

 この状況を俺のせいのように言われても……。


「ゲオっち、君との出会いが、ボクの人生をずいぶん豊かにしてくれたみたい。ホント感謝してるよ!」

 エルキュールはいつもより強めに俺の背中を叩いた。


 感謝か。

 エルキュールはそう言ってくれるが、俺の方こそ感謝している。


 この世界に来てから、俺の旅はほとんど彼と共にあった。

 俺のような嫌われ者が、俺を友と呼ぶ彼にどれだけ救われたか。


 面と向かって言うのは恥ずかしいが、いつか感謝を伝えないといけない。俺はそう感じていた。


「みんなぁー!!」


 もう一人、俺を救ってくれた人物の声が聞こえた。彼女に出会ってから、この世界の俺の生活は始まったのだ。

 ディーナが手を振りながら、町の入口から向かってきた。


「なんだい、騒がしいと聞いてきたら、あんたら戻ったのかい」

 ディーナが働くカフェレストランのオーナーであり、俺たちの住む部屋の大家でもあるブレンダも続けて現れた。


「ディーナ。ブレンダさん。ただいま戻りました」


「ゲオおじさん、お帰り!」

 ディーナの笑顔が俺へ向けられた。


 ああ、帰って来たんだ。


 俺はこの笑顔を見るために生きている。

 今までの旅も、この笑顔を守るため。そして、これからもきっと、この笑顔を守るためならどんなことでも出来るだろう。

 俺はそう確信した。


 ただ、この短期間にディーナのレベルが10も上がっているのが気になったが、今は何も考えず、帰ってきたことを喜ぶことに集中しよう。

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異世界に行ったら嫌われ者のハーフ魔族になってました 埜上 純 @nogamix

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