第153話 その後の経緯

 聖地ソルズレインから帰還後、俺たちは全員シェミンガム王国の王都エバーディーンに滞在した。

 複数でどこへでも移動できる魔法があれば一度帰ったりもできるのだが、そうもいかずエイブラムの身柄を引き取るまで残ることになった。


 魔王城に同行するジャスティン以外は『リターン』でクレシャスへ連れ帰ろうとしたが、


「全部終わってからみんなで帰ろう!」


 というエルキュールの意見で、皆で留まることになった。


 そのエイブラムだが、尋問するまでもなく聴き取り調査には素直に従っていたようだ。

 質問に対して何一つ隠しだてはせず、淡々と答えているという。

 俺が何かしたんじゃないかと変な話もあがったが、禁呪の後遺症だろうと落ち着いた。


 聴き取りの結果によると、想像していたとおりエイブラムの行動の根底は魔族への恨みだった。

 ソルズ教のことは利用していただけで、まったく信仰していない。ただ、人間以外の種族を認めない考え方には共感していたらしい。


 もしかしたらエイブラムさえいなければ、ソルズ教は過激な宗教ではなかったのかもしれない。

 そうなると、信者からすれば一連の出来事は単なるとばっちり。被害者と言ってもいいぐらいだ。


 俺はソルズ教への偏見を捨て、先入観なく見ようと思った。

 嫌われ者のハーフ魔族が偏見を持つなんて、最悪な気がしたからだ。



 エイブラムの身柄を引き渡されたのは、王都に滞在して三日が経過してからだった。

 今回の件で一番の被害者アルアダ王国のことが気になったが、それはシェミンガム王国として謝罪や賠償責任をしっかり果たすので、エイブラムは魔王の好きにしていいとのことだった。


 やはりシェミンガム王国としても最優先は魔族の対応。

 直接面識のある俺からすれば、あの魔王が簡単に戦争をすると思わないが、人間側が慎重になるのも当然だ。

 シェミンガム国王の計らいでエイブラムの引き渡しが、聞いていたより前倒しになったのもそのためだろう。


 俺たちは早速、エイブラムを連れて魔王の元へ向かう。

 魔王城がある魔族の都レリアンティスには、俺は一人で『テレポート』を使い、ディルク、ジャスティン、エイブラムはワイバーンで移動した。

 もちろんエイブラムの拘束を解くわけにはいかないので、ディルクのワイバーンに同乗させる。


 魔王城の前には最上級魔族のベネディクテュスが待っていた。ディルクが連絡したのだろう。

 それから玉座のある間まで通されると、魔王アデルベルトと謁見した。


 謁見中、魔王は顔には出さなかったが、終始ご機嫌だった。

 約束通り、人間と魔族の戦争を仕掛け、禁呪を復活させたエイブラムを連れてきたことなんかより、ジャスティンとの再会を喜んでいるようだ。


 その証拠に、エイブラムについての話はサッサと切り上げ、ジャスティンの話ばかり聞いてくる。

 ずっと同行していたディルクは、孫の自慢話をするように彼の活躍を魔王に報告していた。


「さすが我とあやつの子よの」

 そう言った時の魔王は、ただの父親だった。


 肝心の人間との争いについては、こちらが約束を果たしたことを評価し、不可侵協定の継続を確約してくれた。

 しかもエイブラムはそのまま連れ帰り、処分は人間に任せるとまで言ってきた。

 今回不在の魔王候補ローデヴェイクが聞いていたら、渋い顔をしそうだ。


 ただ、完全に不問とはいかないので、エイブラムの処分はどうしたか、禁呪を研究するようなことはないか、定期的に報告に来るように命じてきた。

 ディルクを迎えに出すので、必ずジャスティンを同行させるようにとも。


 本音はどうであれ、提案はあくまで人間と魔族の争いを避けるためのものなので、ジャスティンは少し照れながら快諾した。

 当然この親子が再会するための口実に、俺も賛成した。



 謁見が終わると、俺は魔法で、ジャスティンとエイブラムは再度ワイバーンでエバーディーンへ戻った。

 何度も往復させているディルクと彼のワイバーンには世話になりっぱなしだ。


 エイブラムをそのままシェミンガム王国へ引き渡した後、直接国王に魔王謁見の内容を報告した。

 戦争は回避され、これですべて片が付いたので、俺たちへの賞賛を兼ねて盛大にうたげを開こうと言われたが、今回は辞退させてもらった。


 俺たちがいたから今回の事態は解決したし、とくにジャスティンの貢献が大きかったのも事実だ。

 それをねぎらたたえたいのも理解できたが、もう皆が疲れていた。クレシャスの町に帰りたかったのだ。

 国王は残念そうだったが、最大の功労者である俺たちの意見を尊重してくれた。


 それから王国を去る前、騎士オリヴァーやアラン、ヴィンスたちに別れの挨拶をして回った。

 とくに勇者マリーはジャスティンの母。なんならクレシャスの町に移住しないか進言してみたが、自分は自分、息子は息子の人生があると断られた。

 俺としては親子で暮らした方がいいのではないかと思ったのだが、ジャスティンはマリーの答えにホッとしているようだった。


 知り合いに一通り挨拶を終えると、王宮の中庭に集まりメイベルの魔法でクレシャスへ戻ることにした。

 マリーや国王たち何人かが見送りに来ている。


「じゃあメイベルちゃん、頼むよ!」

 エルキュールが合図した。


 やっと終わった。

 これでやっと、日常に帰ることができる。


 俺はメイベルが魔法を唱えるのを聞きながら、旅が終わったことを実感した。

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