キャンプファイアーとギョウザとASMR

 夕焼けに照らされ、グラウンドのたき火が踊る。


 文化祭は、無事に終わった。


 サライはグラウンドの階段に座ってキャンプファイアーを眺めている。

 隣には、タケルが座っていた。


「きれいね」

「火って落ち着きますよね」

「音の方よ」


 パチパチと、木々が炎に巻かれている。ずっと見ていられた。

 サライも、たき火の音を動画で流しながら勉強をしている。

 できる量がシャレにならない。


「そうなんですね」

「音楽を流すより集中できるわよ」

「今度やってみます。来年受験ですもんね」

「ええ、そうね」



 といっても、サライは二年にして、志望校から推薦をもらっている。

 試験の対策も万全なので、問題を起こさない限り大丈夫だろう。




「大学は、離ればなれなんでしょうか? ボク、学がないし。秀才のサライ会長には追いつけそうにないや」


 どうして、大学受験の話になってしまったんだろう?

 一緒の大学に入りたかったなんて、始めて聞いた。


「タ、タケル副会長の時うどん、見事だったわ」

「ありがとうございます。会長のメイド服も、似合ってました!」

「よしてちょうだい! 忘れて、今すぐ!」


 思い出すだけでも恥ずかしい。

 一番似合っているからと、撮影会まで始まってしまった。

 スマホカメラの音が、トラウマになりそうだ。


「それはそうと」と、話題を切り替える。これ以上恥部をさらし続けるとたまらない。

「私が休んでいる間、生徒会を鼓舞してくれたそうね。ありがとう」

「いいえ。当然のことをしたまでで」

「あの……今夜、ごちそうするわ」

「ちょっと、そんな」

「誤解なさらないで。あくまでも、あなたの咀嚼音を聞くため」


 自分に言い聞かせるように、タケルは「はい、はい」とロボットのように繰り返す。


「じゃあ、お店は決めてください。ボク、特に好き嫌いは克服しまして」


 本当に、ピーマンだけが苦手だったらしい。 


「ギョウザが食べたいわ」

「いいですね!」


 明日は休みだ。気にする必要もない。


 下校して、中華料理のチェーン店へ。


「一度、ここには一人で入ってみたかったの。大人って気がして」

「おっさん化に、憧れているんですか?」

「そうかもしれないわね。何でも一人でできるようになると、きっと楽しいわ」


 サライたちは、ギョウザとチャーハンのセットを二つ頼む。他は小鉢サイズにした。


「ちゃんと皮が羽根になってる。いただきまーす」

 ガブッと、タケルは豪快にギョウザを頬張る。


 パリッと焼けた皮が、タケルの歯で砕けて爽快な音を立てた。


 今日はこの時間のためにあったんだな、と思わされる。

 帰宅後、志摩に次女を話すと、ため息をつかれた。


『なんで、キスしてあげないの?』

「バカ言わないでよっ」

『お互いニンニクなら、キスの時も匂わないじゃん』

「なななにを言うのよっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る