ASMR好き女子に、花束を(完)
期末テストが終わり、三月の頭からテスト休みが始まる。二〇日まで、学校はない。
三年は卒業して、学校もすっかり終業式ムードだ。
「これ、ホワイトデーです。ちょっと早いんですけど……」
サライは、タケルからブーケをもらう。
「あ、ありがとうっ」
まさか花束をもらうとは思っていなくて、サライはとまどった。どこへしまっておこうかしら、花瓶が必要ね、なんて考える。
しかしブーケの正体を知って、大丈夫だと思い直す。
「あら、これは」
タケルがくれたブーケは、海外のロリポップでできていた。
「ごめんなさい。ボクの小遣いじゃあ、こんなのしか買えなくて」
「いえ。うれしいわ。本当に感謝しています」
心臓の高鳴りが止まらない。
ホワイトデーに、キャンディを送るということは。
「し、知ってる? ホワイトデーに送るお菓子の意味を」
「えっ、あっ、いや」
なあんだ、とサライはガッカリした。
同時に、どうして消沈しているのだろうと思い悩む。
「マシュマロを送るのは、『あなたなんかキライ』という意味が込められているらしいわ」
「うわ。ボク、一年の女子にあげちゃいました」
口を手で覆い、タケルが冷や汗をかく。
「プレゼントなら全然いいのよ。その子も、あなたを本命と思ってないでしょ?」
「はい。ブルーサンダーでした。本命の男子には、キャンディをもらっていましたね」
「よかったわね」
「何がです?」
そろそろ、種明かしをしてあげよう。
「ホワイトデーにアメを送るのはね、そそそ、その人に、好意を持っている……って意味なの」
サライは、自分で言っておきながら動揺した。
タケルを見ると、某キャンディーのイチゴ味みたいな顔になっている。
「とにかくねっ、その、好意は、受け取りました。ありがとう」
これは、お返事をしてあげないと。
「実は、その……」
「サライ会長。ごめんなさいっ!」
急に、タケルがサライに謝る。
「どどど、どうしたの急に?」
「いえ、実は、ボク知っていたんです! アメの意味!」
「まあ」と、サライは返した。
「で、その。ネットでイイ感じのキャンディブーケを見つけたので。お渡ししたくて」
そうだったのか。
「だったら、本当にうれしいわ。私も、同じ気持ちよ」
「じゃあ、ボクと」
サライは、うなずいた。
「ええ。副会長と、いいえタケルくんとお付き合いしたいわ」
「ありがとうございます、サライ会長!」
「だけれど、一つ確認しておきたいの」
タケルの前に、指を一つ立てる。
「私は、あなたの咀嚼音が聞きたくて、お弁当を作っていただけなの。自分の快感しか優先してこなかったわ。そんな女なのよ、私は。それでも、お付き合いしてくださるの?」
自責の念も込めて、強調した。
だが、今度はタケルが真顔になる。
「自分の欲望だけを優先するような人は、人のために一生懸命になったりなんかしません」
タケルはブーケから、キャンディを一本取り上げた。封を開けて、サライの耳元で舐め始める。
「だから、ボクもサライさんのためになるなら、いくらでも音を聞かせてあげます。だから、そばにいさせて」
耳元でささやくなんて、ずるい。
こんなの、OKしてしまうに決まっている。
「タケルくん。うれしい」
サライは、タケルと同じ味のキャンディを開けて口に入れた。
お互い耳元で、キャンディをなめ合う。
唇が触れあいそうな距離で。
(おしまい)
ASMR系男子と、餌付け姫 ~音フェチの生徒会長が、咀嚼音に定評のある男子副会長に毎日お弁当を作ってあげる~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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