技巧が光る秀逸なホラー短編

本作はアイデア自体はシンプルなのですが、その見せ方と構成がとても上手い作品です。

「最初は、蛸だった。」という引きの強い書き出しに始まり、そこから日常の延長上にありそうな出来事が記されていきます。こうして身の回りで些細な変化が起こっていくのだけど、あまりに些細なために周囲の理解をなかなか得られず、じわじわ追い詰められていく。そんな中で思わぬところから救いの声がかかるのですが……。

作品の冒頭に、ある猟奇事件の配信記事が紹介されていたり、アイデアがシンプルだったりするだけに物語のオチ自体はある程度予想がつき、これがミステリーだったら減点対象になるのかもしれませんが、本作はホラーなのでこの予想がつくというのが逆に怖さを増す効果を生んでいるのです。

小さな違和感から日常が崩れていく感覚や、人間関係を通じて描く物語の緩急のつけ方、ラストに向けての恐怖を盛り上げる起承転結のつけ方など、ホラー短編に必要な技巧が十二分に詰め込まれた内容で、アイデアがシンプルなだけに作者の上手さが光る逸品。ただ普通に読むだけでも充分面白い作品ですが、ホラー作品を書く人にはきっといろいろ参考になるでしょう!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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