アイデア自体も強いけど、なにより料理の仕方がうまい!

 不思議な現象に悩まされる女子大学生と、それを手助けする友人のお話。
 ホラーです。それも伝承や民俗学的なモチーフではなく、不条理系かSF風のショートショートに近い味わいの物語。切れ味の鋭いワンアイデア(少なくともホラー部分に関しては)でありながら、それを丁寧に尺を取りながら描くことで、物語としても食べ応えのあるものに仕上がっています。なんというか、ホラーはホラーでも長編のそれに近い印象というか。しっかり人物の顔が見える方のホラー。
 構成が巧み、というかなんというか、まずもって冒頭ですでにやられました。パンチのある、「これは絶対面白いやつだ」と期待させてくれる滑り出し。おそらく結末となるであろう惨劇の、その予告というのもすごいのですけれど。なおすごいのはそれを成立させる感覚が全体に通底しているところというか、つまり情報の出し引きの加減が本当に絶妙でした。
 ある意味、物語の根幹でもある怪現象の、それが一体どういうものであるか、先んじて読者にうっすら理解させるところ。「たぶんこういうことじゃない?」の答え合わせをするかのように読まされて、そして思わぬ角度から「そう来たか!」を浴びせてくるこの手管。
 そしてその「そう来たか」の部分、タグにもある百合要素の、想像以上の濃厚さがもう最高に好きです。ホラー話を盛り上げる味付けのひとつかと思いきや、むしろこっちが本体だったと気づいた瞬間の衝撃。主人公の胸中、思慕の芽生えの感覚というか、その想定外の粘性の高さが本当にたまりません。いやーそっかぁー百合ってそういう……という、この辺の微かな戸惑いのような、「思ってもみなかったんだけどものすごく納得できる」感覚が本当に好き。彼女と親しくなる直前、ワンクッション(むしろワンパンチ?)の場面がすごく効いていて、もう「ここにきっちりこのシーンがあること」自体に敬礼したい感じ。
 面白かったです。レビューというかもう、ただ好きなところを好きに語っただけみたいになっちゃいました。百合もホラーも美味しい作品ですので、ぜひ読むことをお勧めします。完成度高いよ! 結末の瞬間の余韻がすっごいよ!

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