第5話 俺は血肉の通った人間だ!
カズナリは床の上で失神してしまったらしい。ピクリとも動かない。
「バアル・ゼブブ、先に言っておけば良かったな。お前が此処でのびているカズナリを殺さなければ、お前が敗者だ。つまりはオレがお前をやるって事だ。カズナリはそのあと、お前を煮て食おうが焼いて食おうがどっちでもいいって事だ。
人間の共喰い体験記売れると思うか?」
「うるせー、黙ってろ!」
悪魔なんてハッタリだ。このまま逃げればいいだけじゃないか。隙を見て一人で逃げる。俺は呼吸を整えた。と同時に首が絞まる。
「バアル・ゼブブ、お前の考えてる事は全部お見通しなんだよ! いいのか、下らない人生だったんだろう、もう一花咲かせて、金に困らない生活が出来るんだぞ! お前のこれからを保証してやるよ。どうせもうSNSで過去バラされて普通の暮らしは出来ないんだからな」
「ちょと待て、お前の言う通りにしたら、俺は刑務所行きじゃないのか? どっちにしろ地獄だ」
「オレを誰だと思ってる? 体験したら被害者のカズナリを跡形もなく消してやるよ。お前は生身の人間として味わった事だけを書けばいいだけだ」
殺人の事実は消されるが、もう十字架を背負って生きる事なんて出来ない。これ以上罪の意識に苛まれて苦しむのはたくさんだ。
「で、どうする? あと三分だけ待ってやる。
「うるせー、少し黙ってろ!」
俺が決める事なんだろ、ここまで来たんだ。あと少しなんだ。悪魔にとやかく言われる事じゃねえ!
汗が滴り落ちる。俺は投げつけたナイフを拾い……自分の腹に思い切り刺した。
人なんか殺せるかよ! 俺は血肉の通った人間だ。クズでも出来ねえ事があるんだよ。
□ ◼️ □□
思い切り刺したはずが痛みも何も感じない。
夢か、悪夢だったのか。それにしてもすごい汗だ。
ちぇ、くだらない夢を見てたんだな。こんな事するから変な夢見ちまうんだよ。
俺はフォークで刺したソーセージを一口食べた。なぜだ、吐き気がする。夢の中で聞いた人肉というワードのせいだ。目覚めが悪く、苛立って空き缶を踏み潰す。
三缶目を踏んだ同じタイミングで、オフにしたはずのパソコンからメールの着信音が聞こえた。
『バアル・ゼブブ殿
書籍化の話は残念ですが今回は見送らせて頂きます。
代わりにカズナリ様が書く事になりました。
幸い四百四十四号室で女狐様がまだ寝ておりました。
どんな味がしたか気になる事でしょう。
出版発売されましたら一冊お送り致します。
ノンフィクションである事はどうかご内密に。
カクヨムの悪魔より」
了
カクヨムの悪魔 星都ハナス @hanasu-hosito
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