第4話 今、している事を書け!
六百六十六号室はホテルの最上階にあった。あとはこの男、カズナリを蹴落とせば勝ち抜けだ。悪魔といえど、人間だ。警察に捕まるような事はさせないだろう。
「おい、悪魔、最後は俺とカズナリで何をさせる? お前の考えそうな事はあと一つ、賭けだろ? ギャンブルでもさせて精神的に追い込むんだろうよ!」
俺は天井に向かって叫んだ。カズナリは俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「……そんな甘い事でしょうか? 薬打たれて、先に薬が抜けた方が勝ちだったりして。……大丈夫です。もしそうなら僕はすぐに棄権します。バアル・ゼブブさんは正々堂々と賞をもらって書籍化の夢を叶えて下さい」
「……バカか、お前。さすがにそんな事したら、犯罪だ。……けどその手もあるな。棄権すればいいんだ。よし、もうお前とは他人の気がしねえ。さっきは腹立ったけど、俺が作家になったら一番にお前にサインしてやるよ。ハハ」
俺はカズナリの言葉に緊張の糸が解けて笑った。欲がないじゃないか。気も弱そうだ。戦わずして俺の勝ちは決まったようなものだ。
───しかし、勝利の確信も束の間だった。
「バアル・ゼブブ、カズナリ、何を勘違いしている。勝手に決めるな!
もう一度はっきり言う、オレは悪魔だ。人間の苦しむ顔を見て悦びを得る悪魔だ。薬? そんな子供騙しで喜ぶと思うのか?」
俺はさらに低い悪魔の声に怯えた。ボイスチェンジャーでこんな声になるのか? もっと地獄の底から湧き上がる不気味な声だった。
「最後にふさわしい事をしてもらう。さっき、カズナリは棄権すると言ったな。それでもよかろう。ただ棄権は死を意味する」
「棄権は死だと? ふざけるのもいい加減にしろ! 一体どういう意味だ?」
俺は背筋にツーと汗が滴り落ちるのを感じた。まさか、コイツ狂ってるのか。俺ら四人はとんでもない嗜好の奴に騙されて此処に来たのか!
「バアル・ゼブブ、騙してなんかいないぞ。クリアしたら書籍化すると約束しただろうよ。しかもコンテストに応募した作品だけじゃないぞ。これから体験する事も書け! いや、デビューしたらネタはこちらでずっと提供してやる」
どういう事だ? 俺はネタに困った事なんてない。バアル・ゼブブというユーザー名に負けないほど、いくつもホラーを書いてきたんだよ!
「ふっ、確かに。ただお前の作品にはリアリティを感じない。テンプレ小説には飽き飽きしてんだよ! けど今からとっておきの体験をさせてやる。……まずはカズナリを
俺は頭に血が上った。コイツ血肉の通った人間じゃない。言ってる事がめちゃくちゃだ。もう茶番に付き合っていられるか!
「おい、カズナリ出るぞ! くっだらねー、殺人犯してまで書籍化望むわけねえだろうよ! おい、悪魔、もう二度と俺たちに関わるんじゃ、ねえ、ぞ!」
俺はカズナリの腕を掴んで部屋から出ようとした。しかしカズナリに振り解かれた。おい、お前何する気だ? 何を持ってる?
───僕、人を殺してみたかったんです。いいんですか? ちょうどネタが尽きていたからありがたいです。しかも人肉食らえるんですね。だったら僕夢が叶うな。
嬉しいです。この体験を本にもしてくれるんですね。カクヨムの悪魔さん、ありがとうございます。バアル・ゼブブさん、書籍化されたら一番にサインしますね。あっ、あなたは今から僕に殺されるんだった。残念です───
カズナリは薄気味悪い笑顔で俺を見ている。いつの間にナイフを? テーブルの上にはロープとノコギリまである。お前、正気か?
「……どっちにしようか迷います。バアル・ゼブブさん、絞殺と刺殺どちらが好みですか? あははは、両方体験も出来ましたね。先に刺しましょう!」
カズナリー、お前自分のしている事が分かってんのか!
俺は声の限りに叫び、ナイフを取り上げて顔を殴った。力では勝つ。
───カズナリはヘナヘナと床に倒れ込んだ。
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