第3話 交わって最高の顔をしろ!

 エレベーターを降り、俺は女狐とカズナリと指定された部屋に入った。


「四百四十四号室っていかにも悪魔的な数字ですね、気味が悪いです」


「……あっ、ここだわ。鍵はかかってない感じね、あんた先に入んなよ!」


「押すんじゃねえ、お前、いちいち苛立つ女だ!」

 

 女狐は俺の背中を押してきた。さっきの告白のせいで俺は気が立っていた。もう、SNSで晒されているだろうか、親はどう思う? 会社や近所に知られたらどうやって生活していけばいい? あー、やめた、やめた。


 俺はなんて肝っ玉の小さい男なんだ。だったらその体験を書けばいいだけだ。あのスリル、興奮、黙ってきた葛藤を、お涙頂戴のフィクションに仕立てて書けばいい。


 もう戻れない。金を稼ぐ為に、勝ち続けるしかないんだ! 俺は腹を決めてルームランプを付けた。


「ヒー、まさかよね? まさか此処で、させる気なの? そんな事したら犯罪じゃん。私、無理、無理。帰る。書籍化なんてどうでもいい」


 女狐が騒ぎ出した。怖気付きやがって。黙ってろ。俺は女狐を正気にさせる為、ビンタをした。


「……何を、痛いじゃないの、あんたあそこにある物が見えないの? ノーマルじゃないんだよ。今日初めて会ったあんたらになんで私がムチされるの、冗談じゃない」


 ヒステリックに叫ぶ女狐の視線の先には、性的オモチャや蝋燭があった。使った事はないが、追い込まれたられるだろう。いや犯すしかない。



「女狐とバアル・ゼブブ、勘違いするな! まだ何も言ってない。人間共は愚かだな。女が犯されるプレイには飽き飽きしてんだ! いいか、そこで交れ。交わって一番最高の顔をした奴にポイントが入る。女狐が男をいたぶるのもありだ」


 悪魔の声だ。どこで見てやがる。監視カメラでもあるのか。


「おい、ふざけんな、趣味が悪い、悪すぎるじゃないか!」


 俺は天井や壁に隠しカメラがあると思って探した。俺みたいなクズにも選ぶ権利はある。クソ生意気な女に打たれるなんて俺のプライドが許さない!


「おい、カズナリ、お前みたいな奴はそんな事したら自尊心ズタボロだろ?」


 俺はさっきから大人しくしているカズナリに同意を求めた。女性経験がなさそうなカズナリを棄権させて、俺は女狐でイケばいいんだ。おいカズナリ、何処だ? 何処にいる? ───俺は目を疑った。


 ジャケットを脱ぎ、ワイシャツ一枚のカズナリが女狐にキスをしている。あんなに嫌だと騒いでいた女狐がそれを受けている。お前ら出し抜きやがって。このまま事が進んだら、どっちもいい顔になりそうだ。


「……女狐、さすがだな。やっぱり援交で散々やってきただけの事はある」


 俺は女狐をカズナリから引き離した。俺を気持ち良くしろよ! 


「何すんのよ! あんたとするくらいなら棄権する。命令する男は生理的に受け付けないんでね、さよなら。これはさっきの仕返し」


 パチン。女狐はそう言って俺の顔をひっぱたいた。女が抜けたらどうやってするんだ。やろうが二人でどうするんだ! つべこべ言ってないで裸になれ!


 俺は無理矢理、女狐の腕を掴む。やりたくないなら咥えろ。それで充分だ。俺は女狐の頭を下半身に押さえつけた。


「バアル・ゼブブさん、諦めて下さい。僕としましょう! ほら男同士もいいもんですよ」

 

 カズナリ、お前ふざけてるのか? 離れろ、俺から離れろ。痛いじゃないか。


───あっという間に俺はカズナリにやられた。こいつ果てやがって。


「おお、楽しいものを見せて貰った。最高の顔をしたのはカズナリだ。途中棄権の女狐は失格。これで二人に絞られた。さあ、次は六百六十六号室で最後の条件を伝える。健闘を祈る」


 俺は屈辱の中で誓った。次は絶対やる。どんな事を言われてもやり遂げてみせる。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る