第2話 誹謗中傷に耐えられるか!

 エレベーターの隅に予め置かれていた箱から、同時に一枚ずつクジ取り出した。キラリが一番だった。まだあどけなさが残る清楚な女だ。


「わ、私はマン、万引きをした事が一度だけあります。けど、一度だけ、たった一度だけです。金額も大した事がありません」


 お嬢様か、こいつ。自己弁護なんかしやがって。つまらないだろ、学生時代のたった一度の万引きを今さら告白してポイント入ると思ってるのか?


「ユーザーネームキラリ、本当の事だ。ポイント三点だ。次、女狐の番だ」


 この女は万引きを超えてくるだろう。性的にふしだらそうだ。品がない顔つきで勝ち誇ったように話し始めた。


「私も学生時代万引きしたよ。けど、そんな子供みたいな事は日常茶飯事。援交してました! 一度妊娠してさ、堕したりもしたわけ。どう? ポイント高いでしょ? ここだけの話だからもっと言うけど、彼に内緒で今もたまにやってまーす」


 馬鹿な女だ。ノリが嫌いだ。彼氏とは結婚前提で付き合っているとも言った。


「おお、これはキラリよりポイント高い。五点だ。だがお前たちに先に言っておく。これはSNSで晒す。せっかく有名になっても、誹謗中傷で書けなくなるメンタル弱い奴は最初からいらないからな」悪魔は語尾を強めに言った。


 汚ねえじゃないか! 俺は自分が告白しようとしている黒歴史を吟味した。幸いクジは一番最後だ。カズナリの出方次第で変更すればいい。


「……キラリ、もう生きていけない。パパとママにずっと内緒にしてきたのに」


 おい、そんな事で泣くんじゃねえ。女狐もしまったという顔をしている。


「晒すのか〜、まっ、仕方ないね、お金の為だもん、彼氏だって許してくれると思う。さっ、あんたらも早く言っちゃいなよ。カズナリ真面目そうだからさ、私の勝ちだね。バアル・ゼブブってあんたもいきがるタイプでお坊ちゃんだったりして」


 調子に乗ってる女狐の一言で、俺の考えが変わりそうだ。俺だって一度や二度、女を孕ませ捨てた事がある。そんなんじゃこいつらに勝てない。


「……僕は、僕は、もう時効ですから言ってしまいます。訴えられる事はないと思うから。二十年前の列車脱線事故、あれ、僕の置き石のせいです」


「うひゃ、ひゃ、ひゃー! カズナリいいね、真実だ。十ポイントをやる。あれはただの置き石事故じゃなくて、死傷者たくさん出たからね」


 カズナリの呼吸が早くなっている。こいつ見かけによらず、とんでもない事をしてきた奴だ。けど、時効ってあるのか? 時効? だったら俺もあの事を告白してしまおう。もっと罪が重い事を白状するしかない。


 けど、ダメだ、晒されてしまう。晒されて親や兄弟に迷惑がかかる。いや、俺なんか天涯孤独に等しい。親に愛想を尽かされてる。どうする? 俺さえ黙っていれば一生分からない事だ。書籍化のチャンスのために、馬鹿正直に告白する必要があるのか。俺は焦り始めた。誹謗中傷、そんなもの気にしてられるか。裁きたければ裁けばいい。魂を売るってこういう事だ。


「ほーら、バアル・ゼブブって案外全うなんだね。キラリより真面目だったりしてね。どうする? 棄権してもいいんだよ!」


 女狐め、覚えてやがれ。俺は女狐の挑発に乗って言う事に決めた。


「……小学生の時、隣の家のガス栓をひねり……ガス漏れで爆発させた」


 女狐とカズナリが息を呑む。ざまあみやがれ。キラリはずっと泣いている。喚くな、騒ぐな、もう時効なんだよ! おい、悪魔、俺のポイントはいくつだ?


「バアル・ゼブブお前の罪は放火殺人だ。一番高い二十ポイントだ!」


 やった。俺が一番で抜けた。もう良心の呵責なんてクソ喰らえだ。罪の意識、そんなもんなんてあるわけないだろ! 人間自分の欲望の為に何かを犠牲にするんだよ! 


「キラリ、失格。……さあ次は残った三人で四百四十四号室へ行け! そこでお前たちにある事をしてもらう! 健闘を祈る」







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